第13話 新しい家で
side広行
窓際に立って電車に揺られること10分、新居の最寄り駅の
電車を降り、改札を潜ったところで再び四人で集まる。
「さて、家まであとちょっとだぞ」
全員で横に並んで歩くと邪魔なので、また父さんと真理さんが前で歩き、それを俺と雪で後ろから追う形になる。
辺りを見回すと、古き良き街並みがありながらも寂れてはいない不思議な景色が見えた。
時間潰しに雪に話しかけることにした。
「宣里山ってどんなとこなの?」
「うーんとね……」
どうやら彼女は適した言葉を探しているようだった。彼女は目を閉じ、腕を組んで真剣に悩んでいた。そこまで本気で考えこまなくても……
質問を変えようかと思っていると、雪が口を開いた。
「一言で言うなら賑やかな高級住宅街って感じかな。まぁ、賑やかって言ってもうるさいわけではないけど」
「……なるほどな」
「やっぱり知らない土地は不安?」
雪はこちらを心配するように見つめる。
「不安ではあるけど、それ以上に楽しみのほうが大きいかな」
雰囲気は少しだけ前の家の近所に似ている気がする。そこまで不安を感じないの
はそれのおかげかもしれない。
俺の言葉を聞いて、彼女は安心したように表情を明るくした。きっとそれなりに心配してくれていたのだろう。
漠然とだが彼女の人柄がわかった気がした。
そうして歩くこと数分で、新居に着いた。外観は白を基調とした一軒家で、表札には『岸田&菊野』と書かれてある。
ガチャンと鍵の開く音が聞こえると、他の三人は家のなかに入っていく。しかし新しい家を前に緊張してしまっているのか、俺は玄関の前で立ち止まっていた。
そんな俺を不審に思ったのか、雪が話しかけてくる。
「どうしたの? 早く入りなよ」
「あ、ごめん」
言われて俺は急いで家に入った。
まず最初に目に飛び込んできたのは木目調の床と白い壁。雪の後をついていき、リビングとキッチンの空間に入る。リビングには四角いテーブルと、椅子が二つずつ向かい合うように並べられていた。
そしてそれらを挟んで流し台やコンロの反対側に階段が見えた。そのそばに父さんが立っている。
父さんは俺の姿に気づくと、近づいて話しかけてきた。
「広行、とりあえず二階の部屋に案内するから、そこに一旦荷物を置きにいこう」
「わかった」
「じゃあ私もついてくね」
俺が父さんに、雪が俺に続く形となった。
そんなわけで三人で二階に上がる。どうやら真理さんは先に風呂に入っているらしい。
二階に上がると奥まで続いた長い廊下が見えた。左側の壁に4つの扉があるので、二階は個人の寝室が並んでいるのだろう。
「手前から順に物置き部屋、俺と真理さんの部屋、広行の部屋、そんで雪ちゃんの部屋だから」
「わかった」
「じゃあ俺はトイレいってくるから適当にゆっくりしといてくれ」
そういって父さんは一階に降りていった。
廊下を歩き、自室の戸を開ける。部屋の奥にはベッドがあり、その周りに大きめの段ボールがいくつか置かれていた。
中に入ろうとしたところで背後に気配を感じ、振り向くと雪が立っていた。まさか俺の部屋に入るつもりだろうか。
「雪も入るの?」
「うん。あ、もしかして嫌だった?」
そのまさかだった。まあ特に嫌だとも思わないが。
「別に良いけど何もないよ?」
「いいじゃん、お話ししたいし」
何故かは分からないが雪がウキウキしているように見える。とりあえず二人で中に入って荷物を置くことにした。
「早く早くっ」
いつの間にかベッドの上に座っていた雪が空いたスペースをポンポンと叩いていた。隣に来いということだろう。
流されるままに隣に座る。お話と言っても俺に何を話せと言うのか…………
「それで、俺と何を話したいの?」
「お互いにもっと知り合おうよ、
今はこれといってすることはないし、良い機会だろう。
「わかった。じゃあいきなりだけど雪は何部?」
「私は剣道部。ちなみに次期部長だよ」
どうやら体育会系のようだ。それになんとなく彼女の凛とした雰囲気に合っている気がした。
「剣道……か。いつからやってたの?」
「えーっと、たしか小学校に入ったときくらいだと思う」
だとすれば十年くらい続けていることになる。勝手な想像だが、次期部長を務めるあたりかなりの腕前なのだろう。
「じゃあ剣道一筋?」
「うん。やってて飽きないし。広行は何部だったの?」
「……帰宅部」
「あ、そうなんだ…………」
会話が途絶えてしまった。なんだか申し訳ない。
それでも彼女は会話を終わらせまいと続ける。
「……じゃあ、中学のときは?」
「帰宅部……」
「…………」
また会話が途切れる。雪がシュンとしてしまった。その表情を見ると少しだけ可哀想に思えてくる。
まぁ中学のときに帰宅部というのは少し説明不足なのだが。
「……最初の一年は俺も剣道部だった」
「え?ホントに!?」
事実を打ち明けると、雪の表情がパァッと明るくなり、詰め寄ってきた。彼女の髪が揺れるたびに甘い香りが漂ってくる。……って近い近い近い!
しかし向こうはそんなことを気にしていないようで、同志を見つけたとばかりに目を輝かせている。
どうやって距離を置こうか考えていると、突然戸が開けられた。
「あら、部屋にいないからもしかしてと思ったけど……」
そこには部屋着に着替えた真理さんが立っていた。
「ふふ、もう仲良くなっているのね」
「それなりn……」
「うん!」
俺が答えようとしたところで雪の元気そうな声に遮られる。
「
雪と目が合う。
「私は後で良いよ」
「それじゃお先に……」
俺は立ち上がり、段ボールから寝巻きと替えの下着を取り出した。
部屋を出て廊下を歩いていると、後ろから楽しそうな声が聞こえてくる。きっと親子揃っておしゃべり好きなのだろう。
……っていうか俺の部屋で話すんだ。まぁいいけれど。
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