第12話 電車にて

 俺が衝撃の事実を知って固まっていると、丁度二人が店から出てきた。

「それじゃあ、家に行きましょうか」

 真理さんの提案に父さんが応じる。

「そうだな……ってどした二人とも?」

「い、いえ……な、なにも」

「……うん、特に何も」

 父さんの問いかけに雪はなんとか誤魔化した。まぁ俺としても今ここで問い詰めるほどの気力は残ってはいないので流れに従う。



 歩くこと数分、阪急梅田駅に着いた。

 辺りを見回すと人、人、人。

 案内板を見るに、他にもいくつかの交通機関が密集しているようだ。西の新宿と呼ばれるのにも納得がいく。 

 見慣れない土地をキョロキョロとしていると、雪に話しかけられる。

「広行は大阪は初めて?」

 俺の覚えている限りでは初めてのはずだ。

「多分そうだと思う」

「じゃあ今度案内してあげるね!」

「……そのときはよろしく」

 そのときが来ればの話だが。


 ホームで待っていると目当ての電車がやって来た。ドアが開き、マルーンカラーの車両に入る。

 すぐに席は埋まっていき、四人で並んで座れるほどのスペースは無くなってしまった。

 父さんと真理さんは並んで座り、そこから少し離れた所に雪と並んで座る。

北宣里きたせんり行き、間もなく発車します』

 アナウンスと共にドアが閉まる。

 疲れが溜まっていたのか、右肩に温もりを感じながら電車に揺られていると段々と眠たくなってきた…………




side雪


 突然だけどお兄ちゃんができました。まあ同い年なんだけど。

 なんかチャラかったりオラオラしてたらやだなと思ってたけど、そうではなかった。むしろ少し優しそうな感じもした。

 だけどそれ以上になんだか疲れている印象が強かった。長時間の移動のせいなのか、それとも他に理由があるのか。いずれにせよ、そういうところはこれからお互いに知っていけたらいいな、と思う。


 左隣を見ると、黒髪マッシュの男の子が座っている。そう、彼が私のお兄ちゃん。流石にまだ『お兄ちゃん』とは呼べないけれど。

 そんな彼はというと、スースーと寝息を立てて静かに寝ている。こうして見てみると、中性的で結構整った顔立ちをしていることが分かる。

 男前というよりかは、どちらかというと母性をくすぐられるような魅力があり、正直お兄ちゃんよりも弟と言った方がしっくり来そうだ。


「……!」

 勝手に頭の中で分析していると、なんと彼が頭を私の肩に乗せてきた。彼の髪が私の首にかかってくすぐったい。

 それに加えて、微かに石鹸のような香りがする…………少しドキドキする。

 いくら家族になるとはいえ、さっき会ったばかりで尚且つ同い年の異性なので、意識せざるを得ない。

 下手をすればあと20分もこの状態が続くのかと考えると、複雑な気持ちになった。


 

 くすぐったさと恥ずかしさに耐えている内に、気付けば淡路あわじに着いていた。他の方面に乗り換える人が多くいるため、車内の人の出入りが激しい。

 そして左肩に感じていた温かい物体が離れる。どうやら広行が起きたみたいだ。

「……ぅん」

「……!!」

 …………か、可愛い。

 彼の色っぽい眠たげな声を聞いた瞬間、頭の中はその一言で埋め尽くされ、他のボキャブラリーは全て消し飛んでしまった。

「ふぁぁ……」

「っっ!」

 そして追い討ちを掛けるように小さくあくびをする。私には彼が猫みたいに見えて、反射的に彼の頭を撫でようとした手を寸でのところで引っ込める。

 危なかった。なんて破壊力なんだろう……

 というかこれだとホントに弟みたいだ。

 私が一人で悶えていると、彼が話し掛けてくる。

「……あとどれくらい?」

「え、えと……10分くらいかな」

「分かった……」

 広行はそう言うと席を立った。

 ……え!? もしかして撫でようとしたのがバレたの?いや、でも…………

 そんなことを考えていると、彼は近くで立っていたおばあさんに話しかけた。

「あの……よかったらどうぞ」

「まぁ、ありがとうねえ」

 そしておばあさんは私の左隣、ついさっきまで広行がいたところに腰をかけた。

 彼はというと、ドアの横に立って、窓から外の景色を見ている。決して表情は緩んではいないものの、その目は餌に目をキラキラと輝かせている猫のようだった。



 

 


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