第11話 新しい家族

「妹って……俺の?」

 その言葉を発した瞬間、場が凍った。

 そして最も早く再起動した父さんが、俺の腕をつかみどこかへ連れていこうとする。

「ちょっ!どこに……」

「すみません真理さん、すぐに戻るんで」

 父さんは俺の異議を無視して、真理さんたちに断りを入れた。

「あら、ごゆっくり~」

「…………」

 真理さんはのほほんとした様子で返し、雪さんはポカンとしていた。



 父さんに引っ張られてきたのは、化粧室の廊下だった。

 父さんは周囲に人がいないかを確認してから、やや息切れしながら声を出す。

「あのさ、広行」

「……おう」

 少しだけ不機嫌な声で返す。

「俺はお前に……どこまで話してた?」

 どこまで、とは恐らく岸田家のことだろう。 

「……真理さんのことは聞いた。だけどもう一人いることは知らなかった」

 それを聞いた父さんはため息をついた。

「……すまん、言い忘れていた」

「……マジか」

 昔から、父さんは大事なところで何かやらかす癖があった。

 最近はそれも無くなってきたと思っていたが、ここにきて再発するとは……

「あぁ、どうしよう!」

 父さんは頭を抱えた。

 しかし、ずっとこうしているわけにもいかない。

「とりあえず戻ろう」

「……怒ってないのか?」

 むしろ怒りを通り越して呆れたくらいだ。

「別に。これ以上あの二人を待たせるわけにもいかないし」

 俺は先に戻ることにした。俺が歩き始めると、父さんも慌ててついてきた。



 そして先ほどまで座っていた席に戻ってきた。

「あら、おかえりなさい」

 真理さんは明るく迎えてくれる。

「すみません、待たせてしまって」

 父さんは苦笑いで返した。

 そして真理さんと雪さんのほうを見て続ける。

「……二人に謝らなければいけないことがあります」

「まあ」

「…………」

 真理さんは不思議そうに返し、雪さんは黙ったまま話を聞いている。

「実は……」

 父さんは口を開いたが、何と伝えるべきかがわからないのか、言葉が途切れた。

 やがて沈黙が訪れる。

 ……埒があかない。

 我慢しきれなくなったので、俺の口から告げることにする。

「信じられないかもしれませんが、父さんは雪さんのことについて、俺に伝え忘れ

ていました」

「ちょ、広行!」

 父さんが『なんでお前が言うんだ!』と言いたげな目で俺を見てきた。すかさず俺も、『全部アンタのせいだろ、文句あんのか』という念をこめて睨み返す。

 父さんは俺から目をそらし、しゅんとしてしまった。

 一方、岸田家の二人は取り乱してはいなかった。

 真理さんが口を開く。

「じゃあ改めて紹介するわ。この子は雪。私の娘で、広行くんの妹よ」

 雪さんは俺の目を見て

「広行君の妹になる雪です。えっと……これからよろしくね?」

 明るい調子は崩さず、最後に可愛らしく首をかしげた。なかなかあざとい。

 とりあえず俺も挨拶しておく。

「雪さんの兄になる広行です。よろしく」

 俺が言い終えると、雪さんは嬉しそうに笑った。どうやら警戒されてはいないらしい。

 無事に自己紹介が済んだところで父さんが言葉を発する。

「……本当にお騒がせしました。」 

 何を言ってるんだ、終始騒いでたのは父さんだけだろ?

 そう言ってやりたかったが、目の前の二人が許しているようなのでなんとか飲み込む。

「いえいえ、お気になさらず」

「私、全然気にしてませんから」

 ……どうやら岸田家は二人とも優しい人柄のようだ。

 そういえば、雪さんって一体いくつなんだろうか。

 決して老けているわけではないが雰囲気が大人びているので、正直どちらかというと妹よりも姉のほうがしっくりくるのだが。

 それについて考察しようとするも、丁度ディナーが運ばれてきたのでとりあえず考えるのをやめた。



 食後のデザートも食べ終え、しばらく満足感に浸る。時計を見ると、20時になる頃だった。

「さて、そろそろ出ますか」

 父さんが呼びかける。それに真理さんも応じる。

「そうですね」

 どうやらそろそろ店を出るそうだ。確かに良い頃合いだろう。

「じゃあ、俺と真理さんで会計してくるから二人は先に外に出といて」

「わかった」

「それではお先に」

 言われた通り俺と雪さんは店の外で待つことにした。



 雪さんと二人で並んで待つ。少し気まずいと感じるのは俺だけなのだろうか。気になっって雪さんのほうを向くと目があった。

 雪さんが話しかけてくる。

「そういえば広行君は……」

「呼び捨てで良いよ」

「うん、じゃあ私のことも雪でいいよ。広行はどこの学校に行くの?」

 どうやらそこまでは雪も聞かされてないようだ。

「修裕学院ってとこ」

「あ、じゃあ私と一緒だね!」

 そうなのか。まあ確かに同じ学校のほうがなにかと親にとっては便利だろうが…………え、一緒? 

「雪は四月から何年生?」

「来年度から二年生だよ」

 あれ?

「俺もなんだけど」

「……え」

 雪の表情が固まった。

 俺と雪は同級生……だけど雪は妹。

 そして一つの答えにたどり着く。

「雪の誕生日っていつ?」

「12月9日だけど……そっちは?」

「5月9日」

「……あ~、そういうことなんだ」

「ということは雪も知らなかったんだ」

「うん、お兄ちゃんができるとしか聞いてなかったから」

 雪はそう言いながら微笑を浮かべた。


 ……そんなわけで、同学年の妹ができました。


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