第2話 別れの春は突然に
side広行
『話がある』
父さんにそう言われて連れてこられたのは近所のラーメン屋さん。二人でカウンター席に並んで座る。
父さんは味噌ラーメンを頼み、俺は豚骨ラーメンを頼んだ。
いつもならビールを頼むであろう父さんが、ビールを頼まずになにやら悩んでいる様子で厨房を見つめているのを不思議に思いながらラーメンを待つ。
明後日からは春休み。今年度の学校行事も残すは明日の終業式のみとなった3月のある日の夜。
小中学校は既に春休みに入っているので、いつもならそんなに混まないラーメン屋さんも気付けば満席になっており、家族連れがいつもよりも多く感じる。
「お待たせしました」
ぼーっとしていると、待ちに待ったラーメンが運ばれてくる。
「食うか」
「そうだね」
パチン、と手を合わせてから箸を割る。
隣の麺をすする音を聞きながら、自分も無心で豚骨ラーメンと唐揚げを味わった。
そして……
「お先にごちそうさま」
と、父さんがつぶやいた。
「先に会計だけ済ませてくるから」
そう言い離れていく父さんを一瞥し、最後の唐揚げにかぶりつき、スープも飲み干した。
「ごちそうさま」
俺が手を合わせたと同時に、戻ってきた父さんが隣に座る。
それからお互い無言のまま、3分は経っただろうか、父さんはずっと何かをためらっているように見えた。
「それで話っていうのは?」
俺は単刀直入に聞いた。
父さんは一瞬だけ表情が硬くなったが、吹っ切れたかのようにため息をついた。
「俺と
父さんのその言葉の意味は、何故か何の抵抗もなく頭のなかにスッと入っていった。
そして冷静に言葉を返す。
「それで……これからどうするの?」
それから離婚後のことについて聞いた。
大事なことをまとめると、
1つ目は、俺は父さんに引き取られ、兄は母が引き取るとのこと。
2つ目は、今住んでる東京から父の転勤先の大阪へ引っ越すこと。
3つ目は、まあ当然のことながら転校しなければいけないこと。
4つ目は、父にはがいる他に付き合っている人がいること。そして母と兄はそれを知らないこと。
主要な点はこれくらいだろう。
話し終えた父さんは下を向き、また黙りこんでしまった。
「本当にすまん、今日まで何も話さなくて……」
声を絞り出すかのようにそう言った。
「別にいいよ、むしろ俺としては嬉しいくらいだから」
父さんが離婚に関してどう思ってるのかは知らないが、とりあえず紛れもなく『本心』を述べた。
「……そうか」
心なしか、少しだけ父さんの表情が明るくなった気がする。
1つ気になったことを質問する。
「ちなみにいつ引っ越すの?」
「3日後の晩に大阪に着くようにしたい」
「わ、わーお」
思わず変な声が出た。3日後かぁ…。
「随分と急になってすまない」
「まぁいいよ。また明日詳しいこと聞かせてくれれば」
俺はそう言い帰り支度をする。
「そろそろ帰るか。じゃあ車出してくるから」
「父さん」
「どした?」
「最後に街とかをじっくり見ておきたいから、歩いて帰るよ」
「……わかった、気を付けてな」
そこで父さんと別れた。
外に出る。
やはり春が近づいてきているとはいえ、夜は寒い。
不思議なことに、口のなかのラーメンの濃い後味も油っこさも、全く残っていなかった。
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