THE NRN-4

南雲 千歳(なぐも ちとせ)

第1話

 それはる初夏の折。

 1学期が始まってから3ヶ月程が過ぎた、午前中は授業のあった、土曜日の放課後──。


 県立東浜高校に通う一人の男子高校生である、俺こと成海なるみ隆一りゅういちは、帰りのHRホームルームも終わったので、友人とのお喋りもそこそこに、この学校の図書室へと行く為、教室を出た。

 明日は日曜日で休みだし、誰もが「さあ、これから一週間ぶりの週末を楽しもう!」と言うような気分になるこの放課後の時間、所属部の活動がある日でも無いのに、何故なぜ、わざわざ図書室などと言う辺鄙へんぴな場所に行くのかと言えば、それはこの学校の生徒として青春を過ごして行く上で避けては通れ無い、或る重要な任務を果たす為である。

 その任務とは、委員会活動──それも図書委員の仕事の一つである、図書室の貸し出し係の当番なのであった。

 休日を前に極めてやる気の出無い事だが、本日の午後、俺は委員会により図書当番の仕事が割り当てられているので、この学校の図書室の管理を預かり、所定の業務をこなす必要がある。

 図書当番の主たる業務内容をざっくりと説明するなら、「昼休みや放課後に図書室に行き、貸し出しカウンターに座って室内を監視している」と言うだけの、どこの誰にでも出来る簡単なお仕事である。

 他には、図書室内の窓・カーテンの開け閉めやら空調の管理、入荷した新刊のラベル貼り、閉館時に返却ポストに返された本を元の棚に戻すなどの作業もあるが、平時はカウンターで室内を監視しつつ、貸し出し方法の分から無い生徒にそれを教える以外にするべき事は無く、それらが済んでしまえば、殆ど椅子に座って無為むいに過ごすだけの退屈な仕事と言ってい。

 しかし、そんな他人ひとから見れば一見いっけんどうでも良い様な図書当番の仕事だが、現に学校に通っている本人達からすれば、大きな失敗やサボりなどは許され無い、極めて重要な任務なのである。

 この俺も年頃の男子高校生だけあって、そんな家に帰る時間が遅くなるだけのつまらない作業で貴重とも言える土曜の放課後の時間を潰すよりも、さっさと家に帰って宿題を片付けたり、来年に控えている大学受験の為の勉強をしたり、所属部の活動で必要な事を考えたり、それらが終われば友人とインターネットを通じたゲームに興じたりしたい。

 ──が、やんちゃだった昔の頃とは違い、何分なにぶん高校に上がってからの俺は品行方正な優等生で通っているので、与えられている仕事を忘れたフリなどして家に帰るなどと言う、これまで積み上げて来た内申点や自身への評判に傷が付く様なチョンボは間違っても出来無いし、したくも無い。

 第一、本日の貸し出し係の当番には相方がおり、与えられた仕事からフケる事によって発生しる様々なデメリットを考えると、尚更なおさら、そうする訳には行か無いのだった。

 もっとも、今日の相方を務めるもう1人の図書委員は、俺と同じクラスの女子で、中学以来の友人でもある、ちょっとした美少女(と、俺が思っている)の桧藤ひとう朋花ともかなので、そうと来れば、土曜の午後で最低レベルに萎えた俺のやる気も少しは出ようと言うものである。

 そんな訳で、俺は図書室の開室時間に遅刻などし無いよう、帰宅あるいは部活などの用意をしながら教室前の廊下にたむろしている他の生徒達の合間あいまう様にして階段室へと行き、そこを登って、図書室ほか社会科準備室など各特別教室が並ぶ、校舎1棟の2階へと移動した。

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