12-2 義妹へのプレゼントと義妹な彼女からのご褒美のこと
充希の誕生日プレゼントを探すため、瑞希さんと出かけた。瑞希さんが塾やらで忙しいから久しぶりだった。
義妹(いもうと)へのプレゼント選びを彼女に手伝ってもらう。あるいは、彼女へのプレゼントを義妹(いもうと)に手伝わせる。
これはラブコメのエピソードで定番の心温まる情景だ。選んでいるのがかわいいアクセサリーやおシャレなインテリア小物とかであればね。
だが、探しているのは、凶器の拳から敵のあごを守るための布の塊だ。そもそもどこで探せばいいのか、義母(はは)の頼りない情報を元に見つけ出すことからスタートだ。
「お義兄さん、それってどんな形でした?」
どう考えたって、美少女の専門分野と正反対だが、瑞希さんは優秀だった。充希のお気に入りが売ってそうな店で、鼻の下を伸ばした店員からいろいろ情報をきき出していた。
「へえ、あんたたちカップルじゃなかったんだ。それもそうか。でも、あんまり似てないね」
どうせ「釣り合いのとれない彼女連れやがって」とか思ってたんだろ。
グローブではなく、拳サポーターと言うらしいことがわかった。充希と使っていたのとたぶん同じなのは、つかみやすいよう、指の周りは薄く覆われ、5本の指が別々にスムーズに動くようになっている。そして、なぐるために握り込んだ時は拳の前面をガードする形だ。
「でも、これ試合に使えないよ」
「充希は試合に出ない主義なんで」
「弟さんはみづき君って言うのかい」
弟だと思われて当然だ。
「充希ちゃんはね、まだ、体は小さいけどとても強いんですよ」
店員さん、あんたでもかなわないよ。そこそこ腕っ節に自信があるようなテイだけどさ。
安物もあるのだが、充希の実力に見合う物は結構な値段がした。この前、瑞希さんの誕生日で相当がんばったプレゼントに準じるぐらいだ。仕方ない。これも人命を守るための投資だ。
「じゃあ、ラッピングのお金は私が出しますね」
店を出ると、瑞希さんがいった。
「ラッピング?」
「まさか、女の子へのプレゼントをこんな可愛くない袋に入れたまま渡すつもりじゃないでしょうね」
「だって、充希には、かわいげがないし、物が可愛くないんだから、しょうがないんじゃ」
「いいから、行きましょう」
ラッピング専門店? そんな所があるなんて初めて知った。さすがは女子力高めの瑞希さん。そこは、色とりどりのカワイイ紙に包まれ、女子のあこがれの異世界とつながったような場所だった。
「えっ、女の子? へのプレゼントなんですか?」
「はい」
無理もない。これから包まれようとしているのは、飾りを捨て、ただただ、ぶん殴ったり、ぶん投げたりするのに最適に研ぎ澄まされた究極に地味な商品なのだ。瑞希さんは店員と一緒に選び始めた。
「へぇ。とても、その、何というか・・・。元気のいいお嬢さんなんですね」
さあ、これで、プレゼントの完成だ。色とりどりのかわいい紙に包まれた中身は、華やかさのカケラもない機能的な武具。
「これほど充希にふさわしいプレゼントはないかもしれない」
「きっと喜びますよ」
やだなあ。痛いのは。
まあまあ歩いたので、公園で休憩した。
「ごめんね、疲れてるのに」
「いいえ。気分転換になるし」
そう言いながら、うつらうつらしている。
「久しぶりのデートなのに、彼女が寝ちゃって残念」なんて思う男子は1人もいないぞ。寝顔はカワイイし、寄りかかってくるその体を支える仕事は何時間でも勤務し続けたい。
これでよだれとか垂らされたら、もうご褒美。胸のあたりがぬれるのが、キスとはまた違う興奮を呼び覚ますのだよ。
目覚めた時に恥ずかしがる顔のオプションも付いてきたら「ご褒美の重箱二段重ねヤァー」と叫びたくなる。
なぜに、女子は彼氏の胸で寝ている時、よだれをたらすご褒美な行いをあんなにも恥ずかしがるのだろうか。まったくその気持ちがわからない。でも、カワイイ。
白い目で見ないで。女子馴れしてない高校生男子なんてみんなこんなだよ。
清楚な美少女がはしたないと感じるのは女子の本能のようなモノなのかも。充希ならまるで平気でいるんじゃないか。
おれは、寝ぼけてゆれている瑞希さんに話しかけた。
「ねえ、瑞希さん、キスしてもいい?」
「だアめ」
お前も進歩のないやつだねえ、とか思わないように。これはおれが発明した「1人、聞いちゃだめ遊び」といって、断られるのがわかっているのに、ワザと聞いて、カワイイ「だめ」をもらう遊びなんだよ。目覚めたら黙ってするんだから、これでいいの。
ああ、瑞希さんの寝顔いつまでも見ていたい。えっ、胸? チキショー、また、意識しちまった。充希のせいだ。
瑞希さんの胸はヒロインにありがちな2大設定、巨乳、貧乳のどちらでもない。もっともコストパフォーマンスの高いサイズだ。これ以上大きすぎると、ムダに男子どもの視線を集めてウザイし、小さいと不必要なコンプレックスの原因になる。サイズに詳しくないが、おそらく、ややC寄りのCとDの中間だと思う。
ちょっと手を伸ばせば届くすぐ目の前にあるんだけど。そんな、寝てる間になんて、絶対にそんなことはしないからね。星飛雄馬に顔向けできなくなっちゃう。
充希はかわいいラッピングのプレゼントを渡され、不思議そうな顔をした。だが、その奥から姿を現したモノを見て、文字どおり、狂喜乱舞した。
「キャー」
おれに抱きついてきた。思った通りだ。
我が妹よ、お前は本当にそれでいいのか。見た目はいたいけな15歳の女子が、人を殴るための手袋をもらって、心の底から歓喜の念に包まれてる。
「お義兄ちゃんがくれるものなら何でも嬉しいの」
なんか本物の可憐な女子みたいな顔してますが。
「ウソをつけ」
おまえは、宝石よりも指輪よりもブランドのバッグよりも、マジでそれが欲しかったんだろうが。
「ホントなのに」
「いいから、ドサクサに紛れてワザをかけるなって、前にも言ったよね」
「もう、ムードないんだから」
充希は目を閉じた。
「何している?」
「こんなに喜んでるんだから、お姫様の唇を奪うチャンスよ。さあ、早くゥ」
「だから、人の腰を砕こうとしながら、そんなこと言ってもゼンゼンかわいくねぇーって、前にも言ったよね」
「もう、熱い抱擁じゃない」
「あのな、お前には長年の鍛錬ですり込まれた数々のワザが染みこんでいる。お前が興奮すると、もはや本能の一部かのようになってしまったそれらのワザの動きが馬鹿力とともに発動するのだ。お前の意識や認識とは関係ない。言ってみれば、お前は超人ハルクだ」
「ヒドイ。年頃の女の子に化け物だなんて」
「内面的な話だ。見た目が年頃の女子だから、余計タチが悪い」
「ハイ、ハイ。コント『義妹のパンチは兄専用』はもうそれぐらいにして。ケーキを食べましょう」
義母が促した。
「えっ、義妹のパンツは兄専用?」
「こら、母娘そろって同じベタな下ネタを言うな」
「そんなに欲しいなら、あげるわよ」
「いらんわっ」
「お姉ちゃんのは欲しがるくせに」
「欲しくないわっ、って、ないこともないけど。義母さん、ニヤニヤしてないで、このセクハラ公務員みたいな娘をなんとかしてください」
「ええっ、欲しくないんですか」
「瑞希さんもワルノリするのはやめて」
3人そろって、ちょっと意地悪する時のあのジトッとした目で笑っている。この3人を1カ所に集めたのは間違いだ。離しておくのが正解だった。でも、それだと、おれに彼女ができないな。近づくと痛くて、離れると寒い「ハリネズミのジレンマ」みたいだ。
「そうだ、今度、お義兄ちゃんも、練習につきあってよ」
ケーキをほおばりながら充希が言った。
「なんで、おれが」
「だって、女性の先輩ばっかりだと物足りなくて」
「お前ほどの逸材を育て上げられる道場なら、ほかの女性選手でも、おれよりははるかに強いはずだ」
「だって、先輩でも女性相手はどうしても遠慮しちゃうから」
「おれにも遠慮しろ」
「ダイジョブよ。お義兄ちゃんは防御力だけはハンパないから、思いっきりいけるの」
「だから、思いっきりくるんじゃねぇ」
「でも、お義兄ちゃんだって、強くならないといざという時に大切なモノを守れないわよ」
そうか。確かに、充希と違って瑞希さんは本物の可憐でか弱い女子だから・・・。
「って、だまされないぞ。自分の防御力ばかり磨いたって、守れないじゃないか」
「じゃあ、攻撃も教えてあげるわよ」
「遠慮する。おまえみたいな生まれながらのドラゴン・レイディとは違う。才能なき者が努力してもムダだ」
DRAGON LADYとは清朝末期の皇帝の母・西太后のあだ名であり、また、アメリカンコミックのキャラから、強く、狡猾、神秘的なアジア人女性、パワフルだが短気な女性への侮蔑的な呼び名でもあるそうだ。充希の場合、単にドラゴニックオーラ(闘気)をまとった格闘家って意味で言ったが、あながち元の意味も間違ってない。
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