3-3 聞こえちゃってた 絶対誤解されてるよな。二股がけのロリコン野郎という最悪の

 絶対誤解されてるよな。二股がけのロリコン野郎という最悪の冤罪だけはなんとかしないと。瑞希さんとの登校時間。息が詰まりそうだ。

「あの、」

おれがなんと切り出したらいいか困っていると、氷の女王の表情がゆるんだ。

「説明しなくていいですよ。全部、聞こえてましたから」

「ええっ、全部。どれぐらい全部? どの辺から?」

「『何してるんだ』ぐらいから」

ほんとの全部じゃないか。それはそれで最悪では。

「でも、どうして」

俺と瑞希さんの部屋の間には充希の部屋がある。隣の部屋でもないのに。

「どうしてでしょうね」

微笑が浮かんだ。とても、きれいだった。

「なんとなくこうなるんじゃないかと思ってました」

そんな予知能力があるなら、昨晩のことを予言しておいてほしかった。防弾チョッキ、は手に入らないまでも、さらしを巻いて寝たのに。あれっ、さらしって胸じゃなくて腹に巻くものだったっけ? 思い出したらまた胸が痛くなってきた。

「あいつも勝手なやつです。これまでさんざん兄を兄とも思わないひどい仕打ちをしてきたくせに。自分一人の兄ではなくなったことがそんなに悔しいのか」

・・・って、聞いてない。瑞希さんは何か考え込んでいる。立ち止まった。

「充希ちゃんは私にとってもかわいい妹です。でも、それとこれとは別です」。

体ごとこっちを向いた。ああ、デジャビュが。

「私負けませんから」

 気づいたら瑞希さんが。

今度は誰も見ていなかった。と思う。


            ♪♪♪♪つまらないことを気にしてるんだね♪♪♪♪

                      (「失恋のすすめ」鈴木康博)


「毎朝毎朝、本当に仲よすぎだな」

啓太は一緒に登校してきたことを言ってるだけなのが、危うく取り乱しそうになった。

「おまえは毎日毎日同じことを言って飽きないな。てゆうか前から思ってたんだが、毎朝一番に教室に来て、校門を眺めながらいったい何をしてるんだ。好きな女子の盗撮でもしてるのか?」

「なんてひどいことを言うんだ。おれが愛しているのはおまえだけなのに」

「ふざけるな。まさか妹を狙ってるんじゃないだろうな。手ぇ出したら、この窓から突き落とすぞ」

まあ、こいつにそんな度胸はないが。俺とは違う。

いや何言ってるんだ、俺だって違う。

あれはおれじゃないんだ。好きな子に告白どころか話しかけることさえできないキャラのはずが、告白をすっとばしていきなりキスするなんて。きっと何か魔性の物に取りつかれていたに違いない。

瑞希さんと話せたのは、同じ家に住んで、いっしょに登校する強制会話モードに入っていたからだ。すべては義妹効果だ。その時点ではまだ好きな子ではなかったけど。


「おれは親友の彼女に手を出したりしないよ」

「おれが言ってるのは下の妹の方だ」

「とうとう自白したか。上の方が彼女だってことを認めるんだな。手間かけさせやがって。ほらカツ丼でも食え」

「いや、そういう意味じゃなくてさ」

ついに動揺が顔に出てしまった。

ごまかしているわけじゃない。本当におれにはわからない。少なくともつきあっている感じはしないよな。アカの他人の同級生と毎朝いっしょに登校していたらつきあってると勘違いしたかもしれないが。キスはしたけど。キス何回までは友達以上恋人未満とか、そういうのはルールブックに書いてあるのだろうか。

啓太がぽつりと言った。

「本当は下の方だって・・・」

 すくい投げで鮮やかな1本を決められたショックが大きすぎて、啓太の言う意味がわからなかった。

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