3-2 誰としようが自由だろうが 「どうしてお姉ちゃんに・・・
「どうしてお姉ちゃんにキスしたの」
その質問はおかしい。
「そんなの自由だろう」
この返しもおかしい。
「ずるい。あたしだって義妹なのに。何が違うっていうのよ」
「いや、全然違うだろう」
寝ぼけていたら間違えるぐらいには似てなくもないが。
「あたしだって、あたしだって」
泣き出した。ちょっと衝撃だ。これまで何度もケンカしてきたが。いや、一方的に次々と繰り出される攻撃をひたすらブロックし続ける修行を果たしてケンカと呼べるのかわからないが、これまで充希がケンカで泣くのを見たことがない。
痛すぎて泣きたいのはこっちなのに。
それに水泳の授業はどうすればいいんだ。「野良犬にかまれちゃってさ」。誰も信じないよな。てか、この傷でプールに入れるの?
それはともかく、充希はなぐさめて、落ち着かせて。
「もう自分の部屋に帰りなよ」
「一人じゃ帰りたくない」
凶悪な獣がなんか昼ドラの人妻ヒロインみたいなこと言ってますけど。
「眠るまでいっしょにいて」
想像してみた。充希の部屋で重傷を負っている俺。これが罠だったら冤罪を晴らせないぞ。
「おとなしくするって約束するか」
「うん」
野犬のような気性とはいえ、根はかわいい義妹だ。信じてあげることにしよう。
眠るまで手をつないでやった。そういえば、幼児の頃にも「1人で怖くて寝れない」とか言うから同じようにしてやったことがあった。
乳離れしていた子供が、下の子が生まれると赤ちゃん返りするというのを聞いたことがあるな。自分に注がれていた親の愛情が手のかからなくなった自分から手のかかる赤ちゃんに奪われたと感じ、自分も赤ちゃんに戻れば愛情を取り戻せるのではないか。まあそんな理屈だ。でも、それって3歳児ぐらいの話だろう?
小さいころと同じ寝顔は天使のようだといえなくもない。
最悪だ。今度は新しい妹に見られた。
***あいつの前に出るとうまくしゃべれない***
(「失恋のすすめ」鈴木康博)
「今日は一段と静かね」。
いつものように小田さんじゃない方を聞きながら、義母が言った。
朝食は全く会話がなかった。
今まで粗暴なニホンザルか弟ぐらいにしか思っていなかった充希も昨日夢うつつであんなことやこんなことがあったのかと思うとさすがに少しは意識してしまう。
待てよ。でも、あれはおれにとっては瑞希さんだったんだから、意識すべきは瑞希さん。いかん。瑞希さんもいるのに何てことを。自分でもよくわからなくなってきた。
なんか瑞希さんは氷の女王のようだし。
充希のオーラにはほんの少しだけだけど反省の色が見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます