【七月二二日 午後六時二十分】
どこまでも続くかのように思われた階段は唐突に終わりを告げた。目の前に石造りの古臭い壁が現れて、彼が立ち止まった。
「ちょっと待っててね・・・。」
彼が壁の一部を掌で押し込むと、壁に真四角の切れ込みが入り、次いでその部分が横にスライドして人一人分の大きさの入口が出来上がった。中からは光が溢れだし、暗がりになれた目に突き刺さる。
「・・・っ!」
「暗い所から急に明るい所に出たからね。すぐに慣れるよ。」
彼の言うとおり、すぐに周りが見えるようになってきた。四角い入口から中に入ると、そこは小さな部屋になっていて、正面に扉が設けられている以外、窓も家具も何もなかった。
「一応ここまで侵入された時のために、部屋を多く造って目的の部屋にはなかなか辿り着けないようになってる。変な所に入ると迷っちゃうから、ちゃんと付いてきてね。」
正面の扉を開くと、また部屋があって、今度は扉が三つ設けられていた。確かに、違う扉に入ってしまうと分からなくなってしまいそうだ。黙って後ろをついていく。
開かれる部屋の様相は、開けるたびに異なっていた。ある部屋は本だけが天井近くまで積み上がり、ある部屋は何かの機械が部屋の中を占領し、そしてある部屋はよく分からない様々な色の液体が所々で沸騰している部屋もあった。
次々と開かれていく扉に、僕はその内どうやって帰ってきたか分からなくなった。
「これって、帰れるの・・・?」
「一応地図は有るけど、今は人に貸しているんだ。大丈夫。僕が道を覚えているから。――――着いたよ。この中で、君に自分の事を思い出してもらう。」
彼は最後の扉を開ける。
中は、今まで通ってきたどの部屋よりも薄暗かった。壁面に据え付けられた燭台は3つしかなく、その中で蝋燭の火が弱々しく揺らめいている。
その明かりに揺られて、3つの影が壁面に映っている。
「じゃあ、教えてもらおう。・・・黒服さん。」
黒い戦闘服を着た三人の影が、仄かな明かりに映し出されている。両脇の二人は、仮面を外され、憔悴した表情を露わにしている。そして正面に座った男は、間違いなくあのリーダー格の男だった。マスクを付けられたままで表情は窺えないが、荒い呼吸は他の二人よりも衰弱していることを痛いほどに表していた。
マスクの男がここにいるということは、ほかの二人も恐らく昨日襲撃してきたメンバーだろう。僕を助けた上に、黒服達を全員捕まえてきたのだ。
「・・・ユウ、マぁ・・・!」
男がこちらを睨み付ける。後ずさる僕の前に立ち塞がるように、眼鏡の男がマスクの男の正面に立つ。
「マスク越しにもそれほどの殺気を匂わせることができるなんて、元気そうで何よりだよ。安納悠斗(アンノウ ユウト)・・・。」
眼鏡の男は椅子に近づくと、マスクを乱暴に剥ぎ取った。素顔が露わになる。
僕は男の姿を見て、愕然とした。
白い髪に白い肌、薄く灰色がかった空色の瞳。
「・・・いや、ユウマのお父さん?」
眼鏡の男が、クスリと笑った。
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