25話 悪意の目覚め
カッコウという鳥の最も特徴的な習性を挙げるとすればは他の鳥の巣に自分の卵を置いていくという托卵という行動である。
他の鳥に育てさせる。これは別にその鳥を信頼してのことではない。その鳥を利用しているというどちらかといえば悪意ある行動である。
さらには托卵の際には元々あった卵を地面に落としていくという最悪なるサービス付き。
他の動物を食べるなどのほうがよほどマシとも思える、悪意そのものとも思える習性を持つカッコウが得た能力はこれまた悪意に満ちていた。
「母体がチンパンジーとか、その能力が傷の肩代わりとかそんなのオイラには知らなかったんだけどね。それでも1週間生き延びた能力、オイラが受け継がせてもらったよ」
カッコウことゴーシュの能力には1つの流れがあった。
まずは雌、それも妊娠している母体が必要であるということ。
これはチンパンジーであるエノスがいたおかげでクリアできた。エノスがいなくても生命サイクルの短い、ネズミなど妊娠と出産がすぐにでも来てしまうような動物は園内にいくらでもいた。出産がすぐに来てしまうことは母体からすぐに放り出されてしまうということでゴーシュには具合の悪いことであったが。
母体を選べば、次にその母体に入ることが必要である。しかし、これはさほど難しくない。相手の視界内に入れば、能力により自然と胎内へと入れるのである。さらにこの時、相手はこの状態を把握できない。
胎内にいる胎児はこの時完全に命が絶たれる。これは托卵時のカッコウと同じで、ようは自分を育てさせるために他のヒナはいらないのだ。
後はひたすら出産か母体が死ぬのを待つだけだ。どちらかが行われないとゴーシュは胎外へは出られない。胎内では何もできないのである。
一見すると母体にとっても、母体が闘う相手にとってもおぞましい能力であるが、母体の身体が胎児ごと壊されるようなことがあればゴーシュにも致命的なダメージとなる。
胎児であるためにゴーシュは避けることもできず、母体ごと死ぬだけなのである。
さらにはこの能力の発動は一度きり。胎児でいられるのは人生で一度きりなのである。
エノスに胎児に決してダメージを通さない能力があったからこそゴーシュはエノスを母体とし、エノスの子供を殺した。
善意も悪意も彼にはない。
能力だけが悪意に満ちているのであった。
「これがオイラの能力、『
ゴーシュは母体であるエノスの死体に手を合わす。しかし、その表情を見れば悲しんでいるのではなく、ただ行為そのものをやってみたという感じである。
「さて、オイラはまだ出てきたばっかりのひよっこだけどさ。アンタはオイラと闘うのかい? オイラは別にどっちでもいいんだぜ。なぜならオイラはアンタには感謝しているんだからな。こうして母体を殺してくれたおかげでオイラはちょうどいいくらいの時に外に出てこれた。アンタには感謝してもしてもしきれないよ」
先ほどまでエノスと死闘を繰り広げていたぽん太はどうしようかと悩む。
全身の針は尽きている。
だが、体力を消耗して新たに針を生やすことはできる。
そして、ゴーシュは先ほどこう言っていた。
「能力を受継がせてもらったって、言ったな! 『
全身から針を出し、そのまま飛ばす。
全身から発射された針は四方八方に飛び、決して避けることは許されない。
「うわっとと……」
ゴーシュは慌てて目の前にあったエノスの死体を盾代わりにして針をやり過ごす。
「危ないなあ。闘うなら闘うって言ってくれないとさ……まあいいけど」
全身から発射したためにゴーシュ単体を狙えず、そこまでの貫通力もなかった。
だが、非人道的とも言えるゴーシュの能力を聞いてぽん太は死体を盾にするくらいは予想していた。
「目くらましになってるぜ!」
エノスの死体を前に掲げていたためにゴーシュは眼前までぽん太は接近していることに気づかなかった。
「母親と同じように死にな!」
逆棘のある針を一気に5本ゴーシュの体内へと突き刺した。
「ぐふっ……」
血が地面に滴り落ちる。
「まさか、ここまで母親と同じ行動だとはな」
血を吐いたのはぽん太。ゴーシュはぽん太に触れていることでダメージをゴーシュに肩代わりさせていた。
「だが、もう終わりだ。その針を抜こうとすれば内臓を引っ張って……って……!?」
ゴーシュに突き刺した5本の針、それがあるはずのゴーシュの腹には何も刺さっていなかった。
「こいつをお探しかい?」
ぽん太の腹部からズブリ、と嫌な音がした。
ゴーシュの手には1本の針。そしてそこには腸らしきものが吊り下げられている。
それはゴーシュのものではなく……
「なんで、だ」
「オイラの能力さ。母体はダメージの肩代わりだったっけ? オイラの能力は攻撃の肩代わり。ちょこっとばかし違うのさ」
母体の能力を強化した上で自分に引き継がせる。
ここまで辿り着くことで『
ダメージではなく攻撃そのものの肩代わり。
それは針すらも肩代わりさせるということ。
「さあてと、残りも引き抜いちまおうかね」
すでに重症の身であるぽん太から残りの4本の針を抜く。
内臓という内臓のほとんどを体外に出されたことでぽん太はそのまま、まるでミイラのように死体へと成り果てることとなった。
「さすがに触れていないと発動しないってのは強化されなかったか。まあいいや、こうして良さげな能力が手に入ったし」
母体であるエノスの死体も、闘っていたぽん太の死体にも目をくべずそのままゴーシュはどこかへと歩き去っていった。
【某事務所にて】
「ああ、いいですねえ、いいですねえ!」
モニターを見ながら興奮の冷めることなく錺はレポートを纏めていた。
これまで一週間、多くの動物が死んできた。
それらを気にせず錺は生き残っている動物たちを見る。
「うんうん、ちゃんと強い動物もいますし、弱いと思われていた動物もいますね。ならば行きましょう! 第二ステージへと!」
勢いよく立ち上がった衝撃で驚いた黒服の1人がコーヒーを零し書類の1つが駄目になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます