7話 最強降臨

 アタシは誰が何と言おうと最強さ。それはアタシがよく知っているし、人間どもだって知っている。最強だから王に象徴され、最強だから畏怖され、最強だからアタシは強い。誰よりも。

 だけど、最強イコール負けないってことじゃない。最強だって負ける。

 老いに負けるし、運に負けるし、数に自然に災害に山に海に川に岩に崖に……。つまりはアタシが最強だからって負けるしいつかは死ぬ。


 アタシは今まで檻の外の世界を知らなかった。ライオンとして生を受け、これまで檻の中で生活をし、人間どもの見世物にされてきた。でも、檻の外にいる人間が安全な場所にいるはずの人間がこちらを見て恐れる様を見るのは嫌いじゃあなかったね。


 アタシが生まれてすぐに名前が与えられていたようだが、アタシがそれを知ったのは2歳を過ぎてからだった。

 リオナ、それがアタシにつけられた名前だ。これも嫌いじゃないが、もっと早く知りたかった。そうすればリオナって呼ばれたときに返事の一つでもしてやったのに。


 ライオンってのはそもそも雌のほうが偉いんだぜ?

 雄なんかただ寝そべってアタシら雌ライオンが狩ってくる餌を待ってるだけ。

 アタシらの方がよっぽど働きものさ。狩りの経験も、だから雌のほうがより知っている。

 狩りにかけては、闘うことにかけては雌のほうが雄よりも慣れてるってもんさ。

 

 まあアタシの最強たる所以とか、能力は今はどうでもいい。というか、アタシはこの一か月の闘いで能力を使う気はない。身体能力が強化されるとかならまだしも、アタシのこの能力はつまらない。闘いがつまらなくなる。

 最強たるアタシは真正面から堂々と闘わなくてはならない。小細工なんてなしでな!


 働きもんのアタシは今日もこうして檻から出て園内をうろつく。闘えって言われたから闘う。

 アタシは闘う気満々なんだけど、みんなビビッて中々出てきてくれない。

 アタシが無意識に発している殺気やらオーラやらに気圧されてるんだろう。

 だけどたまに、

 

「やあやあ、我こそはハムスターのグランなり。見たところお主は強い動物であろう?ならば我が手柄を立てる糧となってもらおう。いざ、尋常に……喰らえ!『倉鼠ハムスター’ズハート』」


 たまにこうしてやってくるやつがいる。今度は男か。結構小さいな。アタシがこの姿だと180㎝くらいだから、150㎝もないくらいだ。

 何だかよく分からないけど、ハムスターの……ええと、グランがアタシと闘いたいらしい。

 グランが能力を使うと、グランの身体は光に包まれ……特に変わっていなかった。


「まあ、いいけどさ」


 とりあえずかるぅく殴ってみる。アタシは最強だから、闘いはなるべく楽しみたい。すぐに終わらせちゃあつまらない。


「ぐはっ!」


 ありゃ、強すぎたか?でも、能力使ってるみたいだから何かしら対応できたんじゃないのか?それとも攻撃用の能力だったかのかな。それなら悪いことしちゃったか。

 グランは殴られた箇所を押さえてゴロゴロと転がっていたが、しばらくするとシャキンと立ち上がった。


「ぬははは!どうやら全力の攻撃であったらしいが、我に時間をとらせたのは間違いであったな!我の能力は体力、治癒力の蓄積。こうして少し時間が経てば傷はあっという間に治ってしまう」


 ほう、それはすごいこった。


「貴様の能力はどうやら攻撃を強化するようだが、後何回それを使える?我はこのようなときのためにたっぷりと治癒力を溜めておいた。貴様の能力と我の能力、どちらが限界を迎えるか根競べと行こうではないか!」


「……」

 

 えっと……すげえ言いづらいんだけど。


「うん?どうやら恐れをなしたようだが、もしや先ほどので打ち止めか?ならば大人しく我の一撃を以てして死ぬが良い」


 そう言ってグランはお世辞にも良いと言えないほどの腰も何も入っていない拳を突き出していた。

 アタシは興味本位で殴られてみるが、何ともない。むしろ殴ったグランのほうが拳を痛めている。


「ぬう、貴様……防御に全能力を回したのか?だから一発しか攻撃してこなかったというのか。……仕方ない、ならば、一撃で駄目なら二撃で。右腕が駄目なら両腕で貴様の身体を砕けさせようぞ」


 グランは腕を交互にくるくると回し殴りかかってくる……が、もういいや。興味失せたわ。


「あのさあ」

 

 グランの両腕を掴みそのまま握力のみでへし折る。


「ぐ、あぁぁぁ⁉」


「アタシは全力でも何でもないし、能力も使ってない」


 全力の1/100しか使っていない。

 能力なんて使ったら……こいつ、息しかできないんじゃないか?


「単純にお前が弱かった。何でアタシに挑もうとしたんだ?」


 両腕から手を離すとそのまま頭に手をかける。


「や、やめ……」


「アタシは最強だからな。油断はしない。殺せるときには殺すんだ」


 ポキリと、そんなあっさりとした音を鳴らして頭蓋骨が割れ、グランの身体から力が抜ける。


 ふう、疲れなかった。

 こうしてアタシのオーラに気圧されないヤツは大抵が実力差が分からない馬鹿。

 だけどたまにいる。


 ガンと後頭部に何かが当たる音と衝撃があり、アタシの身体はぐらつく。


「あら?私よりも醜い女性がいますわね。醜いのに何で生きてるのかしら?昨日までに殺した3匹のように私がその醜さから解放してあげますわ」


 アタシのオーラに気圧されず、さりとて実力を知ってなお、挑んでくるやつ。

 こいつもそうなら、強敵だ。背後からってのもまあ勝つための作戦なら許してやらんこともない。だがな、醜いだと……?


「ピキリって久しぶりに来ちゃったぞ?」


 こいつは殺す。命乞いは絶対に聞いてやらない。そう決めた。

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