7話 私の回復魔法(後編)
「あの、あの……私……」
どうしたらいいのだろう。この空気。ピリピリした空気に私は耐えられず、思わず口を開いたものの、何を言ったらいいのか分からない。
「アンナマリー、その力はどこかで見せた事は」
ジェラルド司祭は私の手を取ると、静かに問いかけた。
「普通に村の人が怪我したり病気したら使ってました……」
「そうか……」
そう言って、ジェラルド司祭はため息を吐いた。だって……そんな人と違う力だなんて思わなかったんだもん。
「そうだ! 村の人には今まで何にも言われてませんでしたよ?」
しょっちゅうホイホイ使っていたもの。ホントは大した事ないんじゃないの? でなかったら、もっと早く大騒ぎになっているはず。しかし、そんな淡い期待は早々に否定された。
「きっと回復魔術師の魔術を見た事が無いのだろう。回復魔術師自体、数は少ないからな」
ええー、じゃあ私一体どうなってしまうの? ようやくメイド見習いとして働きはじめたばっかりだっていうのに。
「でも私、回復魔術師にはなりたくありません!」
「うむ……」
司祭様はしばらく考え込むと、ようやく口を開いた。
「実は君をこの家に呼んだのは、モニカの薬草学を学ぶ事で回復魔術師に興味を持って貰おうと思っての事なんだ」
やっぱり! そんな事だろうと思っていた。私がなりたいのはメイド! 戦場に派遣とか勘弁なんですけど。
「私はメイドになりたいんです!」
「その気持ちは尊重したいが……その力を見てしまっては中央教会に報告をせざるを得ない。覚悟をしておいてくれ」
「……」
「ただ君はまだ、子供だ。今なら国内の情勢も安定しているし、なるべく今まで通り生活出来る様に私からも働きかけるから」
少し気の毒そうにジェラルド司祭様は言った。少なくとも私の見た目は12歳の女の子なんだし、事態が分かっていないと思われているのだろう。朝食の皿を下げ終わると、報告の為に、ジェラルド司祭は早速教会へと向かっていった。
「すまないね、あたしがへましたばかりに」
「ケリーさん。ケリーさんは何も悪くないわ」
悪いのは……この予想外の力だ。何の説明もなく、こんな力を与えられているなんて。あの神様みたいなの、適当すぎるでしょ。その日は早めに仕事を終えさせて貰って、私は自宅に帰った。
「はぁ……」
「アンナマリー、早く食べちゃいなさい。食欲ないの?」
夕食のシチューをスプーンでつつきながら、私は物思いにふけっていた。頭の中は、大事になったらどうしようという心配で一杯だった。
「お母さん……」
「なぁに?」
「う、ううん。何でもない」
親に相談すべきなのかも分からない。いずれ言わなくちゃならないのだろうけれど。モヤモヤを抱えながら、その日は眠りについた。
「アンナマリー、教会からの返答が来たよ」
「えっ、もうですか」
数日後、玄関口を掃除していると、ジェラルド司祭がそう声をかけてきた。えっ、早くない? 手紙を出すにしても往復を考えたら現代日本並みのスピードだ。
「うん、実は緊急時しか使わない通信の魔道具を使ったんだ」
「教会にそんなものがあったんですか」
「ああ、ただ利用制限があるから普段使いはできないけどね」
そうなんだ。便利なものもあったもんだ、と思うと同時にそんなものを使ってまで連絡する内容だったんだ、と改めて身震いした。
「教会は、なんて?」
「今の所、情勢は安定しているから今まで通りの生活をしてもかまわないと」
「はぁーっ」
それを聞いて、思わず安堵のため息が漏れた。へなへなと崩れ落ちた私を見て、ジェラルド司祭は苦笑しながら続けた。
「ただし、所在は常に教会に報告すること。できるかい?」
「それくらいなら、なんでもないです!」
一応これも家族に報告しないといけないんだろうな。でも良かった、首都の教会に連行されたりしなくて。
「その上で、アンナマリー。君に会って貰いたい人がいるんだ」
「私に……?」
「私の連絡を受けて、今首都から向かっている」
「どんな人なんですか?」
「それは……会ってからのお楽しみにしておこうか」
そう言って、ジェラルド司祭は意味深な笑みを浮かべるのだった。
「へっ? お前の力が」
お父さんが驚いた声を出した。帰宅して家族に報告をすると、みんなぽかんとしていた。
「普通はもっとややこしい事をしないと回復魔法を使えないらしいの。でも私のは特別らしくて、教会に報告が必要になったの」
「そ、それで……お前……」
「今の所、いままで通りの生活でいいって」
「そうか、良かった……」
お父さんは胸に手をあてて、あからさまにホッとしていた。ごめんね、心配かけて。さすがに聖女がどうとか言うところまでは伏せているんだけど。私も良く分かっていないし。
「なら、司祭館で働くのは良いことかもしれないな」
「あらお父さん、反対していたじゃない」
「あの時とは事態が違うじゃ無いか。司祭様の所でならお前の力を悪用するような輩はでてこないだろう」
「悪用……」
「そうだ。これからそういうヤツが出てきてもおかしくない。気を付けるんだぞ。まぁ、この村の中ならそんなよそ者が来たらすぐ分かるけどな」
そうか……。でも回復魔法をどう悪用するっていうんだろう。とにかく私の所在は教会に報告しないといけないんだから、お父さんの考えすぎじゃ無いかな。
それにしても……私に会いたいという人。一体どんな人なんだろう。そして、何のために会いにくるんだろう。疑問は膨らむばかりだ。
とにかく、これからはおおっぴらに力を使わないようにしないと。でないと今回みたいな大騒ぎになっちゃうかもしれないから。
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