雪と向日葵
ぴこ
第1話
「くしゅっ!」
くしゃみひとつ。
朝の冷気に揺さぶられ、わたしは無から産声をあげる。
眠る間夢を見ないわたしには目覚めた瞬間の世界が眠る前の世界と断続しているような感覚に襲われる。
いきなり意識を失い前ぶれなく目覚める。
だからどうしても世界と馴染めない感じがするのだ。
目覚めの儀式の様に布団を目繰り起き上がると障子窓を横に滑らせ開き外の空気をとりこむ。
明るいがまだ5時前。
もぅ8月も終わりだが日の出は早い。
まぁ明るいのは昨晩かけて降った雪のせいだろう。
我が家の庭はまっ白に染め上げられ朝日をキラキラと反射している。
昨日咲いた向日葵が雪に乗っかられてずいぶん重たそうだ。
「やれやれ。」
私は寝間着の浴衣のまま土間に降り草履をつっかけて玄関を開こうとしたが
最近立付けが悪くなってきた戸はまったく横に滑ろうとしない。
仕方がないので玄関に立てかかっている箒を持って再び土間からあがる。
横着なやり方だかけど許しておくれよ向日葵君。
私は箒を窓から伸ばして向日葵の頭を叩く。
ぽすぽすと軽い音をたてて向日葵の頭から雪が落ちる。
うちの庭に咲いた向日葵は全部で七輪。
種は十個ほど蒔いたのだけど無事花をつけたのは七輪だけだった。
なんとか六輪は雪をはらえたけれども
一輪だけが届かない。
これでも手足は長い方なんだけど。
窓から身を乗りだし最後の一輪に箒を伸ばす。
裏切り者は敷き布団だった。
いや、布団も畳まず踏みつけて向日葵にかまけたわたしに小さな意趣返しをしたに違いない。
「ぎゃふっ」
布団で足を滑らせたわたしは箒を伸ばした姿勢で窓から雪積もる庭に落下してしまった。
「冷たっ冷たい冷たい冷たい冷たい!」
なんたって今のわたしは裸足だ。
まっ白な雪の庭を落下と間抜けなダンスで見るも無惨なことになっている。
雪の上を跳びはねつつ家の側にある風呂の上り口に飛び乗った。
半年前にこれが出来るまでは風呂は無く
たらいに湯をはって体をあらっていたのだけど、これが出来て肩まで風呂に浸かれるようになった。
素晴らしい!
素晴らしいぞ風呂!
なんで水回りの施設なのに風の字が入っているのか謎だが
素晴らしいものは素晴らしいのだ。
元に今雪に足の裏を責められているわたしを
やさしく避難させてくれた。
まぁ湯船は薄く氷がはってしまっていて暖かくはないけれど。
ぽすんっ
ぽすぽすぽす。
軽い軽妙な落下音に振り返ると
先程の騒ぎで何故か雪に突き立っていた箒が倒れ、最後の向日葵の頭を下げさせていた雪を偶然にも払い落としたようだった。
「よし」
結果的には目的を果たした。
一定の達成感を得たわたしは風呂から家への渡り廊下に飛び乗る。
もちろん雪が積もっていて冷たいけどすぐ扉だ。
立て付けの悪い扉を開き中に飛び込む。
急いでお湯を涌かして温まらないと。
その後は雪かきだ。
わたしが騒いだせいか蝉が鳴き始めたようだ。
今日もいそがしくなるなぁ
そんなことを思いつつわたしは土間に火を起こすのだった。
雪と向日葵 ぴこ @pikotaro
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