第11話 おしごと、おしごと
その日の午後は飛ぶように過ぎていった。
先延ばしにしていた特集記事に取りかかる。まずは内容について、ページ割を考えながら固めていく。初めに特集のタイトルを決める。キャッチと簡単なリード文も。ここでしっかりと決めることはないけど、副編の吉野さんに見せて説明するためにも必要になる。それから各章でどのくらいのページを使うかも考える。ようやく取りかかったとはいえ、それまでに頭の中で考えているので全くのゼロの状態ということではもちろんなくて、魚を採るために投げ込んでいた網を、引き上げる段階といえば分かりやすいと思う。頭の中であれこれと考えていたものを、引き上げていよいよ形にするのだ。取りかかるのを先延ばしにしていたのは、ある程度もやもやと頭で考える時間が必要だからで、海に投げ入れた網と同じように、実際に引き揚げてみないことにはどのくらいの獲物が採れたのか自分でも未知数なのだ。つまり、ページ割という作業をしてみてどのくらいの記事にできるのか明確になっていく。
特集のタイトルはそのための手始めの作業だ。一旦決まったタイトルに対して、もっと良いタイトルがないかを考えあぐねることをあっても、ここはまず問題ない。奇をてらうことはなく、シンプルに。それよりも、キャッチやリード文を入れるところで詰まる。簡単にいえば、どういう取り上げ方をするか自分の中で決めきれていないと、ここの部分がどうやってもうまく書けなかったり、決めることができない。逆に言えば、この部分がちゃんと書けないということは、もう一度特集についてしっかり考える必要があるということだ。
まだ編集部に異動になってから日が浅い頃は、この部分を後回しにして中の記事本文を書き出すことが多く、そのために余計な時間を費やすことが多かった。僕は初めから編集部にいた訳でないので、編集に関わる多くの基本的なことを他の編集部員から教わることがなく、本当に見よう見まねで、遠回りして身に着けることがしばしばあった。今にして思えば、そんな基本的で大事なことを知らないとは恐ろしい話だけど、その頃の僕はあまりにも何も分かっていなかったので、他の先輩編集部員の人たちに何を教えてもらったらいいのかすら分かっていなかったのだ。2年ほど前になるけど、恥ずかしくも懐かしい……。
僕は昼飯の時の松岡の気になる噂話も忘れ、完全に自分の仕事に入り込んでいたところ、「だいぶ集中してやってますね」と内田さんが後ろから声をかけてきた。「今回の第2特集は蓮田さんなんですよね。何かお手伝いしましょうか?」いつものようにこの上ないタイミングで話しかけてくれた。僕はかなり集中して仕事を進めていたので、ちょうどひと息つきたいところだったし、フロアの向こう側、編集部のシマの向こうの営業のシマにいる松岡も出ていて不在だった。
内田さん、本当にいい時にやって来くるな。
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