《なんて素晴らしい娘なんだ》
「おいライフ!! 何を冗談かましてる!?」
「馬鹿なの!? いきなり何よ!! 頭おかしいんじゃないの!?」
二人からの罵声が同時に飛んでくる。
もぉ〜、なんだよ二人とも!
このままでは俺も終われない。冗談交じりに、アクアに笑いかける。
「アクア、どうだ? こいつ」
と、瞬間アクアが机をバンッと叩いた。
「はぁ!? どうもこうもないわよ! エメラルド王子よ!? 馬鹿なの!? なに王子様誘拐してきてんのよ!!!!」
「……あ、いや誘拐じゃ――」
王子様が割って入ってくれようとするも、アクアは全く気がついていない。どんどんどんどん、文句マシンガンを俺に打ち込んでくる。
「だいたい! 私がいつ結婚するって言ったのよ!? 私は働きたいの!! ほんっと、いつもいつも人の話、全然聞かないし、何なのよ!!」
こ、こっわーー!! あいつに似て怒ると超怖いぜ。
俺は助け舟を求め、王子様をチラ見するが睨まれた。ダメだ、こりゃあ。
「折角の誕生日だ、そんなカリカリするなよ〜。な、ほら、アクアの好きな飯もこんなに!」
「…………っそうやってご飯で釣るとか卑怯!!」
アクアが俯いてそう叫んだ。瞬間、ギュルルルルと「おや?」と思うような音が聞こえて、アクアはバッと顔を上げた。次第にその白い肌が真っ赤に染まっていく。
良いタイミングじゃないか、腹の虫!
俺はそう思ったわけだったが、どうやらアクアは違ったらしい。「もういや!」と俺と王子様に背を向け、店を飛び出した。
「……アクア!!」
これは、まずい。本当にまずい。やらかした。俺は今更になって、嫌な汗が吹き出していた。
「どうすれば良いんだぁ……!!」
頭を抱え、膝をつく。完全に嫌われた。嫌われ親父だ。やらかし親父だ。最低最悪だ。
「……ったく、あんた大丈夫か? 見切り発車過ぎるし、勝手に俺を結婚相手にするな」
ポン、と肩を叩かれる。王子様は怒っている様子は無かった。我が娘と違って、なんて心の広い。
「……追いかけないのか?」
王子エメラルドの気遣いが心に染みる。
「……王子様よ、俺は不甲斐ない。分かっちゃいたんだ、アクアを怒らせるかもって。だけどあいつを止めるには結婚しかなかったんだよ」
「止める?」
「……あいつのなりたいもの、なんだと思う?」
「働きたいんだよな? そこら辺の店で働きたいんじゃないのか?」
「だったら俺も止めねぇよ!! はぁ……冒険者だってよ。一人娘に死の側の道なんか歩かせてたまるか!!」
今どき冒険者なんて儲からないし、夢も希望もない。一昔前ならまだしも、今の冒険者は危険を省みない馬鹿か、天才的に冒険者の適性があるやつだけだ。
「冒険者か……。よし、ライフ。俺が説得してみよう! 結婚相手になるつもりは毛頭無いが、力は貸そう」
何か考えがあるのか、頼もしい笑顔で王子は頷いた。
「王子ぃ! すまんが、アクアの事は頼んだ!!」
あわよくばアクアの未来も頼んだ!
俺はそう祈りを込めて王子様の背を見送った。
そして王子が店を出て行ったのを確認してから俺はその後を全速力で追いかける。
父として、見守らねば!
日が沈み、月と星々が街を照らす中、城下町から少し離れた港にアクアはいた。城下町のランプの灯火が海に反射し、その光はアクアも共に照らしていた。
俺が王子様に追いついた時には、既に何とも言えない距離感でアクアの隣にいて、ふいに昔を思い出す。
結局、すぐにあいつは死んじまったけど、あの頃は良かった。
……アクアにもああいう幸せを見つけて欲しいんだがなぁ、ったく、素直じゃないところだけどうしてこうそっくりなんだ。
俺はアクアと壁を挟んで背を重ねた。
「で、あんたは何で冒険者になりたいんだ?」
「……王子様だけあって、偉そうね。エメラルド王子」
壁越しに二人の会話が聞こえる。
「まぁ、王子だからな」
「……ふんっ。なんで私が冒険者になりたいか、なんて興味無いくせによく言うわよ」
「冒険者に憧れるなんて、死にたいとしか思えない。俺は冒険者なんて死んでもごめんだ」
「……ね」
ん……? 今なんて言ったんだ? 間が開く。
「え?」
「……っ死ねって言ったのよ!!! 撤回して今すぐ! 王子だからって「う゛っ……!」冒険者を馬鹿にするのは許さない!!」
途中、苦しそうな声が聞こえ、アクアの聞きなれた怒鳴り声に俺は額を抑えた。
結婚は無しか、こりゃ……。
「……く、くるしい」
「あ、ごめん」
「ゴホッ……ゴホゴホゴホ……。あー、本当に殺されるかと思った」
「殺すか馬鹿! んな事しないわよ」
いや、やりかねないだろぉ……!?
経験済みの俺は、内心ヒヤヒヤする。
何度胸ぐらを掴まれ、物凄い剣幕で睨まれてきた事か。
「……別に俺は、冒険者を馬鹿にしたつもりはないぜ」
「冒険者に憧れるなんて死にたいとしか思えないって言ったじゃない」
「憧れるだけならな。でも、いざ本気でそれを目指してるやつは死にたがりじゃなくて、ただの大馬鹿だ。俺はそういう大馬鹿は嫌いじゃない 」
……っうおぉぉぉ! 泣かせてくれるぜ、王子様よぉ!?
俺は崩壊する顔面を必死に抑えた。
「……嫌いじゃないって、別にあんたの意見なんて聞いてないわよ」
「そうか? 悪いな」
「……っはぁ。……お母さんがね、冒険者だったのよ。知ってるかもしれないけど、お母さんは呆気なく死んじゃって帰ってこなかった。でも、死にに行ったわけないじゃない……。私はお母さんが見ようとした景色を見に行きたいのよ」
アクア……。
俺はそこから動けなくなった。
やっぱり、あいつの影響だったか。
目頭が熱くなる。
「へぇ、そういう事だったか。でも、それライフは知ってんのか?」
「……知らない、はず。だって、それこそ死にに行くんじゃないかって思われそうで……」
「あんたライフの事、舐めすぎだ。俺も今日知り合った口だから、偉そうな事言えないが、あのオッサンは娘を信じないタイプじゃないだろ?」
予期しないエメラルドからの優しい言葉に、俺の涙腺も限界突破! くそぉ〜、泣ける、泣けすぎる〜!!
もう本当、アクアと結婚してくれ!!
「……っ偉そうに!!」
「偉いんだよ」
「クソ王子」
「初対面でここまで言ったやつ、あんたが初めてだよ」
「嬉しいの?」
「難聴だな」
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