19
柳下の勝利宣言に栗本と川崎、山浦は後からえっちらおっちらやって来て感嘆の表情を浮かべた。
「勿論、あのハンコも本家のハンコに似せた偽物だ。本家のハンコは必ず切った領収書に圧している。犯人のほうの【板前の源さん】は、その領収書を回収し、ハンコをコピーした。そして、そっくりのハンコを作ったのさ」
「……」
升田は唇を噛んで柳下の推理を聞いている。
「本家のハンコを使う大将は、三人目の占部が殺害されたすぐ後、ヘタってささくれてきたハンコの部分を手直しした。って事は、犯人が大将なら圧したハンコはささくれているはずなんだよ。しかしそれはなかった。代わりに出てきたのは、消しゴムの表面に付いてる粉さ」
「なるほど、【板前の源さん】は消しゴムを使ってハンコを模造したんですね?」
栗本は言った。柳下は頷き、川崎は必死に升田を芝生に押さえつけている。
「そんで、俺は市内の文房具屋を片っ端から当たった。特にでかいサイズの消しゴムとトレーシングペーパーを売っている店を。望みは薄かったが、俺は辿り着いたよ。ある人物が案の定、両方を購入していた。これで雌雄は決したぜ」
「……という訳だ、観念しろ!」
升田の腕に手錠をかけようと腰のベルトを吊り上げ、立たせた川崎に柳下は言った。
「と、ここまでは言ったけど、升田は犯人じゃないからな?」
「へっ?」
川崎は間抜けな顔で言った。
「円さんは市役所職員だが、帰国子女である為、魚の漢字なんか分からない。なら漢字に堪能な人物がもう一人いるだろう?漢字検定を持っている人物が。そこにいますよね?」
柳下は闇夜に聳えるイチョウの木の脇に隠れた人物に声をかけた
「蓮井優花さん、あんたが本物の殺人鬼【板前の源さん】だよ」
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