18

 夜の公園のベンチで、柳下は缶コーヒーを傾けながらうんうんと頷いている。手の内を明かさない。何かを絶対に掴んでいるはずなのに、勿体ぶって話さない。そしてこの意味不明な単独行動。

 いよいよ、意味がわからない。

 栗本は半ば呆れ顔で柳下に訊いた。柳下はまた雑誌の袋綴じ部分を無理矢理覗こうとしている。


「なんで、鹿原円に任同を?」

「あ? アレだよアレ」

「アレじゃ分かりませんから!」


 遂に栗本の堪忍袋の緒が切れた。些かびびってしまった柳下だが、佇まいを正すと、栗本に言った。


「俺の考えが正しければ、事態は動く」

「え?」

「わかるだろ? 勝負かけたんだよ」


 あまりに表現が独特過ぎて、半分しか伝わってこない。


「なんで川崎を一旦外したか、分からないのか?」

「なんで? 分かるわけが……」


 遥か背後から駆け足で二人に近付く音がする。柳下は振り返ると、その姿を認めた。


「わぁぁぁぁっ!」


 大声で叫ぶ柳下に共鳴するように、近付くフード姿の人影に駆け寄るがっちりした筋肉質の男。

 川崎はフード姿の人影に低めのタックルをかました。人影は前につんのめるように倒れ込む。夜の公園の芝生の上に二人は倒れ込んだ。


「おい! 何のつもりだ!」

「それはこっちの台詞だ! 顔を見せろ!」


 川崎はフードをひっ掴むように剥がした。そこには憎々しげに川崎を睨み付ける男。


「来ると思ったよ」


 市役所職員、升田だ。

 

「お前が、殺人犯だったのか!」

「俺は……!」


 栗本の問いと升田の反論を掻き消すように柳下は口を開く。


「勿論、小料理屋の大将は犯人じゃ有り得ない。理由はただ一つ。この事件の被害者を殺す動機もない。ましてって事だ。分かるか?一連の事件の法則を……」


 柳下は言うだけ言うと、升田の顔の前にしゃがみ込む。


「一人目は弓張、魚はイワシ、二人目は大野、魚はアジ、三人目は占部、魚はアユ。それらを漢字にし、


 いわしあじあゆ


「それをやる事で、何の共通点もない被害者に無理矢理共通点を作り、イカれた愉快犯の仕業に仕向けた。でもな、三人にはちゃんと共通点があった。唯一な。それはC。ならば全員、市役所を訪れない訳がない。だから俺は市役所職員に的を絞ったわけさ」

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