14

 鹿原円は大人びた外見に反し、舌足らずで喋るアニメっぽい声の女性だった。場所を移し、カフェテリアに入った3人は、本日2杯目のコーヒーにありついた。

 

「占部さん、気の毒でした……」


 円は俯き加減に言った。黒髪が曲線を描き、彼女の美しさをより際立たせる。


「つかぬ事をお聞きしますが、鹿原さんはこの方を御存知でしょうか?」


 柳下は1枚の写真を円に見せた。円の表情がさっと変わった。間違いなく彼女は第2の被害者である大野も知っている。


「……御存知なんですね?」

「えぇ、お客様でしたが、少ししつこい方でした」

「と、言いますと?」

「僕が説明します」


 円の隣に、ポロシャツ姿のガタイのいい若い男がやって来た。カードホルダーには会計課の升田統一ますだとういちと書いてある。


「升田くん……」

「ストーカーだったんですよ。この人。鹿原の」


 升田は円の肩を軽く叩いた。円はしゅんと小さくなったように黙った。


「亡くなった方の事は悪く言いたくはないんですが、占部さんも鹿原に付き纏ってました」


 確かに、円はかなりの美人だ。ひょっとしたら、升田も円に想いを寄せているのだろうか。

 

「そうなんですね……」

「刑事さん、ひょっとしたらあの事件を追っていらっしゃるんですか? 犯人は捕まったのでは?」


 升田は訊いた。柳下は眉間に皺を寄せて言った。


「機密ですから、一般人に話すことじゃ……」

「なるほど、警察のやり方そのものですね? 犯人は板前でしょう? 分かってるのにまだ……まさか疑ってる?」

「いや……」


 栗本は濁すように言った。


「彼女のストーカーは探してくれなかったのに……」

「升田くん、もう……」


 升田は椅子から立ち上がる。肩をいからせながら頭を下げてその場を辞した。


「すみません、彼、悪い人じゃないんですよ。あたしが帰国子女だから、日本の事にあまり慣れていない時から世話を焼いてくれたりして……」

「ほう、あなた帰国子女?」

「えぇ、市役所に入ったのもコネクションで入ったんです。升田くんや蓮井さんはよく私に色々教えてくれたんです。蓮井さんは漢字とかをよく知ってて。漢字検定でしたっけ? 持ってて。升田くんは日本食の作り方とかテーブルマナーとか……」


 柳下は少し笑って頷いた。


「そうですか、だいぶ苦労なさったんですね?」

「いや、いい同僚に恵まれたお陰で、そんなには……」


 少しだけ世間知らずな感じがする。柳下と栗本は礼を言うとカフェテリアを去った。カフェテリアの入口の前で柳下は栗本に言った。


「小一時間、戦ってくるから待ってろ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る