「まぁ、死んだ奴のことを悪く言うのはよくないかなと思うんだけど……」


 県下にあるハウスメーカー、第二の被害者である大野忠敬が勤務していた【クイーンズハウス】の同僚である加藤という男が不味そうにタバコをふかしながら言った。

 柳下達とは別働隊で動いている山浦と、栗本と同期の新米刑事、川崎英人かわさきひでとは目の前で忌々しそうに話す加藤の話を頷きながら聞いている。


「とにかく金にがめつい奴でしたよ。だって缶コーヒー一つ買うのもわざわざ俺らに110円しっかり請求するような奴ですよ?」


 それだけじゃがめついというのか、些か疑問を抱える山浦は片方の頬をひくつかせながら笑った。


「誰かに恨まれているとか?」

「恨まれてるとかは……嫌われてはいたかもしれませんがね。しかし、殺されたとなると可哀相な感じはしますよ。だって一緒に仕事はしてたわけですから」

「ですよね……」


 コーヒーを啜る加藤。若干陰気臭そうな印象があるせいか、何を口にしても不味そうにしているイメージしかない。


「あ、これは関係あるかどうか分かりませんがね。あいつ、可愛い娘がいるっつって、だいぶ入れ込んでましたね」

「可愛い娘?」


 山浦の顔が若干血色を帯びた。


「えぇ、マドカちゃんって言ってましたね。すんませんね、それ以上の話はいまいちわかりませんで……」


 その名前を手帳に記す川崎。立ち上がり背を向けた加藤の姿がなくなると、山浦は言った。


「ガイシャの接点がびっくりするくらいないな。片や普通のおばはん。片やケチ臭い中年のおっさんだぜ」

「聞いた感じだと、どっちもいい性格をしてるみたいですがね」


 川崎が言う。山浦は軽く川崎の頭を平手で小突いた。


「行くぞ」

「はい」


 立ち上がった山浦のスマホが鳴動を始めた。画面には柳下の名前が出ている。


「はい、山浦」

『山浦、川崎連れて来い。二人目のガイシャだとよ。場所は……』

「柳下さん、やっぱりアレですか?」

『あぁ、アイツだよ』


 また魚が食べられなくなりそうだ。山浦は溜息をつき、車のキーをポケットから取り出した。

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