浜岡秀彦はまおかひでひこ。鑑識課にこの人ありと言われる位のカリスマ鑑識官。柳下と唯一心を通わす事ができると言われている男。

 浜岡との作戦会議の際、喫煙所に二人きりで入る。その空間には山浦も栗本も、西川でさえも立ち入る事はできない。

 この日も、浜岡はタバコを喫いながら柳下を待っていた。190センチ近い長身、髭の濃い伊達眼鏡をかけた浜岡は、数枚の写真を手にしている。柳下は喫煙所に入ると、赤い箱のタバコに火を点け、胸いっぱいに煙を吸い込んだ。そして噎せる。


「柳下さん、出ましたよ。2軒目の鑑定結果」

「あいよ」


 柳下は写真に目を落とし、鑑定結果を穴が空きそうなくらい見ている。


「死亡推定時刻は花火大会の日の夜7〜8時。鋭利な刃物による刺傷による失血死。ん?」

「どうしたんです?」

「ガイシャの刺し傷に、人の血以外の反応は?」

「あぁ、なかったですね」

「何も?」

「ええ、柳下さん?」

「ってことは、魚を捌いた包丁とは別の凶器で刺したってわけだな?」


 浜岡はうんと頷いた。


「ですね。しかしあの凶器は刺身包丁で間違いなさそうですね。しかも長い奴」

「あれじゃアジは捌けなかったってか。現場に余計な物は落ちてなかったって?」

「ええ、それも」

「ウロコもワタもなかったってな。ってことは、犯人はわざわざ魚を別の場所で捌いて来たわけだな」


 浜岡はふうとタバコの煙を吐き出すと


「意味分からないっすね。それに、この紙」


 ハンコが圧された1枚の紙切れ。一文字だけ【源】と書かれたハンコ。


「どこかで見たことあるんですよねぇ」

「分かる。これが特に引っ掛かるんだよ」

「ですよね。聞きました?柳下さん。捜査本部ではこの犯人、【板前の源さん】って名付けられたみたいですよ?」

「あ、そう。遠からずじゃない?あ……」


 浜岡と柳下はタバコを揉み消すと、声をあわせて言った。


「いる!でも…なぁ……」

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