5
第一の被害者、弓張真知子の夫である
数日前に山浦と栗本が訪れたときは、些か痛々しいくらいの落胆が肌で感じられたが、今回は若干そのダメージは和らいだようだ。痩せてはいるが、その目はやや穏やかさを取り戻している。
今回は新人の栗本に、柳下警部補がついている。弓張はその柳下の風体に少し戸惑った。刑事とは言うが、何せネクタイの締め方がだらしない。ヘタをすれば、職務質問されてもおかしくないフォルムだ。
「線香、あげてもいいですか?」
弓張は頷いた。写真立てに立っている真知子の写真はふくよかな丸顔を破顔させて笑っている。
「ややきつい所はありましたが、私にはいい妻でしたよ」
「お察しします。お子さんは?」
「早いうちに家を出ました。困ったもんですよ。音楽なんかじゃ食べていけるか……」
柳下は畳の上に置かれたインディーズの雑誌を取り上げた。ぱらぱらと捲って弓張に訊く。
「息子さんは、載ってるんですか?」
「え?えぇ、ここに」
アコースティックギターを抱えて、ライブハウスで歌う姿が写真に撮られている。この男が彼らの息子だろう。父親そっくりだ。特に濃くて太い眉毛が。
「息子さんは、事件のことは?」
「知ってるでしょうが、一切連絡はありませんよ」
「親不孝なやつですな。そんな輩にいい歌は書けない」
「ちょ、柳下さん!」
「弓張さん、昨晩また被害者が出ましたが、この方に面識は?」
話をばっさりと切るように柳下は第二の被害者、大野の写真を見せた。弓張は首を傾げる。やはり知らないようだ。
「そうですか。奥さんの交友関係は?」
「さぁ、何せ共通の知人も少ないですから」
どうやら彼には有益な情報はないだろうと感じた柳下。息子の携帯番号を訊くと、弓張家を出てすぐに電話をかけた。
『はい』
「
『そう、ですが』
「警察です。お話をお聞かせ戴きたい」
『あ~』
柳下の耳に間延びしたような声が残る。まるで予測していたかのような感じだ。
『おれ、今ちょうど市内にいるんですけど』
「お、ちょうどよかった。どこかで会えませんかね」
岳は国道沿いのファミレスを指定してきた。栗本も柳下も若干腹が空いている。腹ごしらえも兼ねて話を聞いてみるか。
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