3
山浦の前で、班長である西川警部補が椅子に座って自前のコーヒーを美味そうに飲んでいる。勿論、山浦にはちょっとも分けることはない。
西川はえらの張った顔のど真ん中に鎮座したダンゴっ鼻を右手でぐにぐにと揉みながら、ややけだるい声で山浦さぁと一言告げると続けた。
「いきなり決まったんだけど、実は明日から僕、係長になっちゃうんだよね。警部になったからさ」
自慢だ。まさかそんな事の為にわざわざ自分を呼んだのかと思うと、山浦は若干イラッとした。その丸顔をフグみたいに膨らませる。
「そんでさ、次の班長? 知りたい?」
「えぇ、まぁ」
「どうしよっかなぁ」
そこで勿体振る意味が分からないが、山浦は誰すか?気になりますと言った。
「濃いよ、かなり」
「はぁ……」
何となく山浦は分かってしまった。そしてゆっくり振り向いた先にその人は、いた。
「あ? 今忙しいんだ。あとにしろ」
と言いながら、その人はただ女優の写真集を穴が空きそうなくらいにガン見しているだけだ。
刑事課、いや、県警で1番の変わり者と言っても過言ではない程のキャラクター。そのフォルムはガイコツの様に痩せ、もみあげから繋がった髭。小綺麗にしていれば割と男前の部類に入るような高い鼻と切れ長の目許をしている。
その人の名は、
しかし、この人にはかなり癖がある得意体質があった。
「ほら、今さ。あの事件の担当になってるじゃない?あの人ならかなり燃えてくるんじゃない?」
この柳下、難事件向きの体質だとされている。事実、幾つかの事件においてその体質をいかんなく駆使して解決に導いている。
ただ、かなり癖が強いが……
「んじゃ、確かそろそろ捜査会議だったすよね? 柳下さん。行きますか」
西川が言った。柳下はもうちょい、もうちょい待ってと言って写真集を捲るスピードを、ほぼコンマ1秒早くした。
山浦は頭をもしゃもしゃと掻き毟ると、西川に小さく頭を下げた。タイミングよく戻って来た栗本に手を上げる。
「終わりました。二人には帰って貰いましたよ」
「ご苦労。あとで班長に報告な」
「はい、あれ? 西川さんは?」
「今しがた御昇進なさったそうだ。新しい班長は……」
写真集を机に置くと、柳下は大欠伸をしながらゆらゆらと立ち上がった。
「まさか……」
「ああ、言わんとしてる事が分かってくれて、おれは嬉しいよ、クリ」
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