所変わって取調室。向かい合う刑事の顔色をちらちらと伺うのは、遺体の第一発見者である田川十八だ。その名より5つ歳上の23歳。海浜工業地帯にある工場に勤務している。やや下がり眉の顔が長い痩せ型の男だ。


「あの岩場のとこに、人の足みたいなものが見えたんです」

「へぇ、あの距離から死体だってわかったのか?」

「だって、ありゃ誰だってビビりますって」


 思い切り気の弱そうな男だ。きっと肝試しも真っ先に逃げ帰ってしまいそうな感じがする。

―畜生。なんでこんな奴に、あんな可愛い彼女がいんだよ

 山浦は半ば八つ当たりに近い感情で前にぐいっと体を進めた。びくりと体を震わせる十八。


「あれを確認したのは?」

「あっ、朝香ちゃんです。あ、彼女です」

「言い直さなくていい!そんでアンタが連絡したんだな?」

「山浦さん、落ち着いて」


 栗本が山浦の肩を宥めるように叩いた。畜生。どいつもこいつも……

 それにしても、彼女のほうが肝が据わっているみたいだ。これは彼女に話を訊いたほうが良さそうだな。と山浦は考えた。


「お前はもういい。彼女に話を訊く」

「ホントですか! 彼女、ちょっと怖がりだから……」

「おめぇよりかはマシだろ。まぁいいや、帰っていいぜ。彼女、呼んでこいよ」


 沖朝香、21歳。県内の大学に通う女子大生。田川とは居酒屋のアルバイトで知り合った。彼の第一印象は、やたら腰が低い頼りなさそうな男だったという。

 小顔にクリっとした瞳がついている。垂れ目気味で全体的なパーツもやや小振りだ。


「今回取調を担当する山浦です」

「山浦さん。代わりましょう」

「あ?何でよ」

「班長が呼んでます」


―あ?あのダンゴ鼻が、どんだけタイミング悪いんだよ

 山浦はブツブツ言いながら取調室をあとにした。栗本が彼女と向かい合う。確かに、この顔は山浦の好みだろう。僕はもう少しぽっちゃりしてる方が好きだな。と栗本は思った。


「彼がやばい声で叫ぶから、びっくりして振り向いたんです。そしたら人の足が見えて。確かめなきゃと思ったんですけど、彼、めっちゃチキンだから。それじゃアタシが行くしかないかなって」


 思ったよりハキハキしている。男のほうより何倍も。


「そしたら肥ったおっさんが倒れてるじゃないですか。何よりあの三枚におろした魚が訳わかんなくて怖くて。すぐ彼に報告したんですよ」

「他に、目撃者は?」

「あの場所って、花火大会の穴場なんです。アタシ達しか知らない位の。立ち入るの、ちょっと危ないし」


 進入禁止区域じゃ?と思ったが、栗本はそれを飲み込んだ。二人がそこにいなけりゃ、遺体はひょっとして発見されなかったかもしれないからだ。

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