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パトカーが県道を南下する。花火大会が 終わった後の道路はやたらに反対車線が混んでいる。
新米刑事の
「また……ですかね?」
「ま、そうじゃないの?間違いなく手口がね?」
欠伸をしながら答えたのは先輩刑事の
「もう着くぞ。準備したらすぐに行くぜ」
パトカーを停めると、栗本と山浦はパトカーから出ていった。花火大会会場の海岸の岩礁には既に黄色テープによる囲いがなされている。鑑識課の藍色の制服に小さく頭を下げ、手帳を出す。薄手のゴム手袋をはめると、山浦は跪く。栗本も合掌して目を閉じた。
「クリ、ホトケさんは?」
「はい、
「これは、間違いなくアイツだよな」
被害者の胸には鋭利な刃物による刺し傷がある。他に外傷が見つからない事から、この鋭利な刃物が致命傷で間違いないだろう。異様なのは、その他だ。
「なんなんすかね。これ毎回…」
腹部にぽんと乗せられているのは、三枚におろした魚の骨と頭部。今回はアジのようだ。そして被害者の口にはそのアジの切身が捩じ込まれている。
「これで2件目。1件目は確か…」
「イワシじゃなかったですか?」
1件目の被害者は、県内在住の主婦。
「それに、この訳のわからないハンコ」
紙に赤黒く変色しているハンコが圧され、遺体の隣に置いてある。やけに精巧にできたハンコだ。そこには一文字
源
とだけ記されていた。
「ご丁寧に、しっかりウロコまで剥がしてる。見ろよ。ゼイゴまで取ってるぜ」
「ん?ゼイゴ?」
首を傾げて栗本は訊いた。山浦ははぁ、と小さく溜息をついて首を振った。
「おめぇ、今までに魚捌いたこともなきゃ、アジなんて見たことねぇんじゃねぇ?」
「アジくらい見たことありますよ。アジフライ最高じゃないですか」
「フライにされたアジ以外知らないだろ?」
「イメージはつきます」
「じゃ、ゼイゴは?」
「…」
山浦は被害者の口に捩じ込まれている半身の切身を取り出す。ポリ袋に入れると、尻尾にほぼ近い部分を指差した。
「ここに、イガイガしたウロコみたいなもんがあるんだよ」
「そうなんですか?」
「まぁいい、帰ったらぐぐって調べろ。それがゼイゴだよ。アジはこれを取るのがセオリーだ」
「さすが山浦さん、伊達に彼女いない歴長くないっすねぇ」
「黙れボケナスが!」
山浦は栗本の頭を軽くゲンコツで小突いた。
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