第2話
そのデンカの一言に、マツリ(
「うるさい……」
マツリの小さい声に、えっ? と疑問符が頭に浮かんだデンカ(
「うるさいっ!」
今度は、デンカ(
「何が【イングランドの恥部】よっ! 何が【ノブオン史上、最悪の暴君】よっ!」
「お、おい、マツリ、落ち着けって!」
しかし、マツリ(
「デンカはあたしに対して、いつも紳士なのっ! そりゃたまにおっさんらしく下ネタを言うけれど、あたしが嫌そうにしてたら、すぐに話をやめるのっ!」
マツリ(
「デンカはあたしに対して、いつも気を使ってくれているのっ! そんなデンカが【暴君】なわけないじゃないっ!」
マツリ(
「デンカはあたしに親切で、あたしに優しくて、あたしにいつも元気をくれるのっ!」
マツリ(
「デンカはあたしが装備を買うお金が無い時は、いつも親切にも、あたしにお金を貸してくれるのっ!」
マツリ(
「あたしが合戦の対人戦で負けたら、デンカは優しく『次は勝てるさ』って言ってくれるのっ!」
マツリ(
「デンカはあたしが落ち込んだら、いつでもあたしのそばに居てくれるのっ! あたしが元気になるまで、黙って、あたしの愚痴を聞いてくれるのっ!」
マツリ(
「あたしはデンカがあたしと一緒に居てくれることが嬉しいのっ。イングランドの奴らがデンカのことを【イングランの恥部】って揶揄するなら、あたしがそいつら全員、ぶちのめしてやるのっ! イングランドの奴らがデンカのことを【ノブオン史上、最大の暴君】って揶揄するなら、あたしがそいつら全員を否定してやるのっ! デンカはこんなにあたしに親切で、あたしに優しくて、あたしにいつも元気をくれるって、言ってやるのっ!」
「ははっ。そんなこと言ってくれるの、マツリだけだぜ?」
デンカ(
「良いのっ! あたしはデンカにたくさんの返しきれない恩をもらっているのっ。だから、あたしはイングランドの奴らを全員、敵に回したってかまわないのっ!」
「わかった、わかった。俺が悪かったって……。だから、泣き止んでくれよ?」
マツリ(
「な、泣いてなんかないわよっ! ちょっとだけ、感情が昂って、眼から涙が零れ落ちただけなんだからっ!」
それを泣いていると言わずに、何を泣いているんだとデンカ(
「ありがとうな? 俺のためにそこまで怒ってくれてさ?」
デンカ(
しかし、答えは至ってシンプルであった。
「あ、あたしがデンカに泣き声を聞かせたのは、トッシェやナリッサにも秘密だからね? もし、誰かに言ったら、デンカとは一生、口を利かないからねっ!?」
「はいはい。わかっているから。そんなの、俺が他の誰かに言うわけないだろ? 俺が墓場にまで持っていく秘密のひとつとしておくさ」
「うん……。絶対だからね?」
それから10分も経った後だろうか? 涙が完全に引っ込んだマツリは、デンカを引き連れて、再びノブレスオブリージュ・オンラインで過去最強と呼ばれたボスNPC:ベルゼブブに挑んでいくのであった。
何度も全滅しかけに陥りながら、その度にデンカとその従者:ダイコンはマツリを逃がすべく、自らを盾にする。ダンジョン【忘れられた英雄の墓場】の26階層以降は
マツリたちは21階層から25階層までのクリアに土曜日の6時間近くを消費させられたのだ。いくらそのボスNPCたちを1度倒して、攻略方法は確立している2人といえども、よくて半分の3時間はかかるだろう。
だからこそ、デンカは自分の身を削ってまで、マツリを逃がし続けたのだ。ぎりぎり全滅を免れつつ、再度、ボスNPC部屋の前に集う。マツリとデンカたちのベルゼブブへのリベンジは早6回目へと突入しようとしていた。
「デンカ。あたし、思うのよ。最初からダメなら逃げようとか考えているから、敵に対してアグレッシブに攻め切れないって。それなら、火力を集中させて、ベルゼブブが呼び出すお供を2ターン以内に倒しちゃうのよっ!」
「いや、しかし、それは理屈としては正しい気がするけど、そうなると、俺まで回復に回らずに、その呼び出されるお供を倒せってことになるぜ?」
「そうよ? あたし、気づいたのよ。ベルゼブブ本体の直接攻撃は、あたしが喰らっても2,3発は十分に耐えられるのよ。あいつは5ターン毎に全体痺れ攻撃しか出来ない支援系に特化しボスなのよっ」
この言葉にデンカは、はっと気づかされることになる。今まで、万が一の全滅を避けるために消極的な守り重視の戦法をとっていた。そのことが原因でベルゼブブが次々と呼び出すお供を削り切れていなかった。デンカは改めて、マツリには卓越した戦術眼が備わっていることを認識させられる。
合戦での4人
合戦場では、デンカは俯瞰して大局を見る。この地点に自分たちの
マツリが今が攻め時よっ! と宣言すれば、トッシェは防御を捨てて殴りかかり、守銭奴であるナリッサが自分の所持金を大きく消費する隠し業を発動する。マツリの一言が対人戦においては戦局を打開し、勝利するための鍵となることが最近は特に多くなってきた。
デンカはマツリの言うベルゼブブ攻略を『是』として捉える。マツリの気づきを無駄にしたくないという思いも確かにデンカにはあった。現在時刻は夜7時にさしかかろうとしていた。ここで一念奮起せねば、いくらリトライを繰り返そうが、時間の無駄だとデンカは考えた。
「わかった、マツリ。俺はマツリのその戦術眼から導き出されたベルゼブブの攻略法を信じることにする」
「ん? 戦術眼? あたし、いまいち戦略と戦術ってよくわかってないのよね……。どっちが広域的で、どっちが局所的だったっけ? まあ、そんなことはどうでも良いわね。 今、大事なのは、デンカはあたしに才能があるから、それを信じるって言いたいってことだから」
マツリの言い方に、デンカが何かひっかかるモノを心に感じてしまう。
「あれ? 俺、もしかして、おかしなことを言っちまったか? 俺としては褒めたつもりなんだけど……」
デンカが自分の発言にあやがあったのでは? もしかして、マツリの機嫌を損ねてしまうような失言をしてしまったのか? と1分ほど、自分の放った言葉を振り返り、どこもおかしくなかったよな? ただの勘違いだろと結論づけるのであった。
「デンカがあんまりわかってないって顔をしているから、このダンジョン【忘れられた英雄の墓場】の全階層をクリアした後にでも、あたしの考えを伝えるね?」
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