僕の街の4丁目伝説

しろねこ

タスケテ……

 僕の住んでいる街には、昔から今日までずっと守られてきた掟──と言うより恐れられてきた言い伝えがある。


 お盆の時期の夜は、4丁目の墓地には近付くな。


 というのも、どうやらお盆の時期の夜に4丁目の墓地に行くと、冥界へ引きずり込まれるのだとか。

 本当かどうかは僕以外は知らない。

 街役場は、何を根拠にしているのか分からないが、この話は嘘だと明言しているが、誰も近づこうとしない。

 僕はその方が賢明だと思う。


 これは僕が体験した4丁目の墓地伝説だ。


 それは一年前の夏休み。

 僕は夏休み初週に宿題を終わらせたわけだが、今ではそれを後悔することになるほど暇だ。

 クーラーを付け、アイスを食べている。

 外では、窓を締め切っていてもセミの鳴き声が耳障りなほど聞こえてくる。

 誰か来ないかなぁ、そう思っているとインターホンが軽快になった。

 僕は宅配便だと思って印鑑を持って行った。

「はい、お疲れさ……ま……」

 そこにいたのは、宅配のおじさんではなく、クラスメイトのタクだった。

「よう、リュウ」

「おう、どうしたんだ」

 僕はこっそり印鑑を持っている手を後ろに回す。

「遊ぼうぜ!」

 タクはそう言ってテニスラケットを胸の前に持ってきた。

「いいよ、遊ぼう!」

 僕とタクはテニス部だ。そのため、遊ぶ時は大抵テニスをする。

 僕は自室に置いてあるラケットとテニスボールの入ったカバンを掴んで玄関に向かって走っていった。


 この街で誰でも使えるテニスコートと言ったら、4丁目の墓地の隣くらいだ。

 そこは年間を通して人が少ない。

 そのため、存分に遊ぶことができるのだが……。

 一つ、気を付けなければいけないことがある。

 其の一、墓地にボールを入れないこと。

 其の二、辺りが暗くなったらすぐ帰ること。

 その二つだけは周りの人たちにしつこく言われている。


 テニスコートに着いた僕たちは、早速ラリーを始めた。

 遊びのため、本気で打ったりはしない。

 今の時刻は16時。あまり遊べないのが少し残念だ。

 僕とタクはテニス部のキャプテンと副キャプテンだ。

 ボールはあちこちに飛んでいかないし、一球で何十回も続く。


 何時間やったか、少し日が傾き始めた。

「タクー!もうそろそろ帰ろうぜー」

 僕はタクに提案した。

「おー、そうだな。じゃあ、最後に今日思いついた殺人サーブ見てくれない?」

 殺人サーブて……殺人サーブってなんだ……。

 呆れながらも、少し興味があったため、「わかった」と返事をした。

 タクは嬉しそうにコートの反対側へ走っていった。

「よし!いくぞ!ミラクルスーパー殺人――サーブ!!」

 タクは、大声で叫びながらラケットを振った。

 ガキッ……!!

 テニス部の中でも、ファーストサーブ――いわゆる、2球中最初のサーブの成功率が高いタクは珍しくボールがラケットのフレームに当たった。

 ボールはフラフラと揺れながらゆっくりと墓地に入っていった。

「あ……ちょっと取りに行ってくるー!」

 そう言ってタクは墓地の方へ走っていった。

(何やってんだよ……)

 僕はベンチに座ってお茶を飲みながらタクが戻ってくるのを待っていた。

 今はもう日が暮れている。

 僕はこの街の言い伝えを知っていたが、まだ大丈夫だろう、どうせ嘘だろうと高をくくっていた。

 しかし、異変が起きたのはそれから数分後だった。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 墓地からタクの叫び声が聞こえた。

 僕は墓地に全速力で走っていった。


 墓地には多くの墓石が並んでいた。

「タク?どこだ!?」

「たすけて……たすけて……」

 タクの姿は見えないのに、どこからか声が聞こえる。

 僕が墓地の中を彷徨いていると、タクのものではない声が聞こえ始めた。

「オマエハ……ナニモノダ……。ドコカラ……キタ……」

 それはとても人間のものとは思えない声だった。

「オマエハダレダ」

「ダレダ」

「ダレダ」

 次第に声が複数重なり、大きくなってきた。

 僕は怖くなり、墓地の中を走り回ってタクを必死に探した。

「タク!タク、どこだ!」

 何度返事をしても居場所は分からず、どこを見てもタクは見えない。

「ここ……ダヨ……」

 タクを探し始めて30分ほどした、その時──。

 目の前にある墓石の裏からタクのような声がした。

「タク!?」

 僕は咄嗟に墓石の裏を見た。

 しかし、そこにはタクの姿はなく、あったのはテニスボールだけだった。

 僕がボールをじっと見ていると、肩をトントンと誰かに叩かれた。

 勢いよく振り向くと、そこにはこの近くのお寺の住職さんがいた。

「た……助けてください……。た……タクが……タクが……」

 僕は藁にもすがる思いで住職さんに助けを求める。

 住職さんは、穏やかな笑みでそっと言った。

「とりあえず家に帰ろう」

 僕は住職さんに言われるまま家に帰った。


 翌日、今日のことを話した。

 両親に、テニス部の顧問に、担任に。

 しかし、みんな僕を軽蔑視してこう言ったんだ。


「タクなんて子、いなかったと思うけど」

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僕の街の4丁目伝説 しろねこ @haru-same

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