第29話 服屋に行くついでの出来事
クエストを終えた俺達は、報酬を受け取る前にまず服屋に行くことにした。ラエル達の服がビリビリに破けているため、冒険者達の視線が痛いほど彼女らに集中しているからだ。
「この格好でギルドの外出たくないんだけど……」
「俺は個体系の魔法あまり覚えてないし、他の奴らは魔力切れなんだろ? 服屋は近いから我慢しとけ」
「うぅ……」
破れているところを必死に手で隠しながら、彼女達は素直についてくる。そうしてギルドを出ると、突然俺達の前に数人の男が立ち塞がった。
三人組の男で、服も顔も異様に薄汚れている。
採掘系のクエストに行ったばかりのようにも見えたが、立ち込める悪臭から常にその様相なのだということが分かってしまった。
「おめぇ、マジでなんなんだよ……。なんで貴族と一緒にいるんだ? どんな手を使えばそんなことが出来る??」
そんな汚い男の一人が、俺に向かって口を開いた。まさかとは思っていたが……その声を聞いて、俺は確信してしまう。
「お前、アウロ……なのか」
「あぁ!? それ以外の誰に見えるってんだよ! まさか忘れてたってのか!?」
信じたくはなかったが、俺に話しかけてきたのはかつて所属していたパーティーのリーダー、アウロだった。他の二人も、それぞれ同じパーティーのメンバーだ。
「おめぇがいなくなってから、俺らがどれだけ苦労してきたと思ってんだよ! それに比べてお前は貴族と一緒で、何か分かんねぇけど良い目に遇ってるみたいじゃねぇか……」
アウロの血走った目が、俺の後ろにいる服の破れた女の子達に向く。途端に彼の息が異様に荒くなり、正直同じパーティーのメンバーだったと信じたくなかった。
「何、この人……。目がおかしい……気持ち悪いよ」
「完全にこっち見てるんだけど。庶民の中にはこんな犬みたいな奴もいるの?」
ナナとラエルが無意識に罵倒しながら、俺に身を寄せてくる。それを見たアウロ達は余計に眼光を鋭くして、怒りに震えた。
んな無闇に刺激しないでやってよ君達……。
「どうして俺達は失敗続きなのに、お前如きはそんなに余裕があるんだよ!? 何をすりゃ良いんだ、教えろっ!!!」
「どうしてって、だから俺をパーティーから外したからだろ……。お前がもう少し俺を理解してくれていれば、そんなことにはならなかった」
「はぁ!? お前を外しただけで俺らが割を食わなきゃいけねぇんだよ! 道理が合わねぇだろ!?」
マジか。こいつ、この期に及んで魔法の価値を認めてなかったのか……。
理解できないものは、恐怖するか見下すしかない。分かっていたことではあるが、ここまで理解しようともされないのでは、流石に悲しかった。
俺はこいつらのことをパーティーメンバーだと思っていたのに、こいつらは一度としてそんなこと思っていなかったのだ。
「どうすれば良い目に遭えるか……あくまで言わねぇってのか。だとしたら、力づくで勝ち取るだけだ! 結局は力が物を言うんだよ!!!」
短絡的な思考の末、アウロ達が剣を抜いて俺に向かって走ってくる。まだ自分の方が強いと思ってる彼らに、俺はまたも悲しみを覚えた。
「〈風踏〉」
俺は〈風踏〉を使ってアウロ達の攻撃を不規則に避け、隙を作り出したところで魔導書を叩き込んでいく。描写する手間すら惜しいほどの、あまりに呆気ない一幕だった。
俺の反撃が当たると予想していなかったのか、彼らは虚を突かれたような顔をする。
「んな、馬鹿な……」
「魔法と合わせたなら、お前の剣技は一流だったのにな……」
哀れみすら感じながら、俺は静かに呟く。前よりも幾分か劣化したアウロの太刀筋が、余計に悲しみを煽った。
「クソ、クソ……」
俺の言葉が届いているのかいないのか、地面に倒れたアウロが怨嗟の声を漏らす。それから少しの沈黙があってから、彼は顔だけを起こした。
「こんな惨めな気分を味わうために、ここまで来たわけじゃない! せめて……!」
叫びながら、彼が起き上がる。その直後に伸ばした彼の両腕は、一番近くにいたナナに向かった。
何がせめてだよ!!! せめてで幼女趣味に走ってんじゃねぇ!
俺は慌てて彼を止めようとしたが、彼の手がナナに触れる直前……。いきなり彼の手が、手首から先で切り落とされた。
「う、うわあああああ!? 何だこれえええええ!? いでぇ、ジレン、何をしたぁぁぁぁ!?」
「俺は何もしてないぞっ!? これは一体……」
俺も慌てながら辺りを見回し……。そして見つけた。いつの間にか増えていた、見知らぬ人影を。
「自分より弱い者は狙わない……。それがここの賊の掟だよ、チンピラ君。ま、ナナちゃんは君より強いんだけどね?」
その人影はこの状況に似つかわしくない明るい声で何かを言って、それから名乗りを上げた。
「皆さん初めまして、私は宵闇盗賊団の頭領リン・ホック。この前仕事に復帰したんで、君らのお命頂戴するよ?」
世間話をするかのように、彼女は軽く宣言するのであった。
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