第26話 宮廷魔術師強制連行

 壁も床も古びた木でできていて、黒っぽいシミがそこかしこに散見される。そんなとても貴族にはふさわしくない場所に、四人の宮廷魔術師が集められていた。


「本当に汚らしい場所ね。こんなところ、立っているだけで品位が下がりそうだわ」

「そうですね。私も早く立ち去りたいです」

「ふごふご」


 ギルドにやって来てまず顔を顰めたのは、炎使いのラエルという少女だ。彼女の愚痴に、光使いのロウという少女と闇使いのミラが頷いて同意を示す。


「あまりそういうこと言うと酷い目にあうぞ! この魔法使いには逆らわないほうがいい、絶対にだ……」

「何をそんなに恐れているのですか、みっともない」


 一方、自分の魔法を完膚なきまでに否定された影使いのレイザンは、及び腰で彼女達を窘めた。


 しかし他の奴らからは全く相手にされていないので、本当にこいつは宮廷魔術師最弱だったようだ。他のやつらはもう少しマシであることを祈る。


「宮廷魔術師諸君、今日はここまで来てくれてありがとう。これから王女様にまともな教育をしてもらうにあたって、どうしても実力を確かめておきたかったんだ」

「勘違いしないでよね。私がここに来たのは、男どもがあんたに屈したから宮廷魔術師の名誉を回復するためよ。それに勘違いしないでよね。私はあんたの頼みを聞いたんじゃなくて、危険分子かもしれないあんたの見張りに来たつもりなんだから」


 俺が彼らに話しかけると、ラエルは勘違いしないでよねを連呼して赤い長髪を後ろに払った。そんな彼女に、ミラが慌てて弁明する。


「別に私は屈してないふご!? この野蛮な男にいきなり殴られただけで、まともに戦ってもいないふ……いないのだよ。もっと正当な勝負であれば、私が負ける理由はない」

「私は完全に負けました。ジレン様に絶対の服従を誓っています」


 ミラがふごふご言わなくなったところを見るに、彼は女性陣の前では格好つけておきたいようだ。反応を窺うように、彼の目はラエルとロウを行き来している。


 一方、レイザンは完全に弱気なことを言っていた。こいつ、完全に心が折れてやがるな。


「それより今、私達に王女様の教育をさせるとおっしゃいましたか? 彼女はあくまで影使い、レイザン以外が教えることはないのでは?」

「一系統の魔法だけ教えたって意味はねぇ。今回のクエストが終わってからは、お前らにも王女様に魔法を教えさせるつもりだ」

「あぁ、そういえばあなたは半端者だそうですね。王女様まで半端者にするおつもりですか?」


 このロウという女の子は、言葉遣いと態度は丁寧だがなかなか強気な女の子のようだ。こういう手合を言葉で説得するのは困難だろう。


「一系統エキスパートの方が優秀だと言うなら、今回のクエストでそれを証明してみせろ。今回のクエストをクリア出来たら、王女様に教えろなんて言わないさ」

「ふんっ。冒険者如きが出来ることを、私達が出来ないわけないじゃない。さっさと終わらせて宮廷に帰るわよ」


 俺の提案に、ラエルが即座に乗っかってくる。


 ただでさえ目立っているのに冒険者如きなんて言うから、周りの冒険者達から鋭い視線が一気に集まる。しかし彼女は冒険者を馬鹿にしているからか、意にも介していないようだ。


「ねぇ、結局この人達誰なの? そろそろ二人っきりになれる?」

「日に日に依存度増してるなオイ……」


 しかし連れてきたナナの方は一切宮廷魔術師の方を見ずに、こちらにばかり構ってほしそうしている。少し前までこうじゃなかった気がするが……記憶喪失の影響で、やはりその原因は思い出せなかった。


「で? 結局私達に何をさせようっての?」

「これだ」


 ラエルが尋ねてきたので、俺は既に宮廷魔術師の名前で登録していたクエスト用紙を見せつけた。


「【ウォーキング・プラント】の採取だ。傷が少なければ少ないほど報酬が高く、殺しちゃったら無償」

「採取!? あんた私達をなめすぎじゃない?」


 ラエルは不敵に笑い、宣言した。


「それくらい、一瞬でクリアしてやるわよ」

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