第23話 かませ犬にすらなれぬ犬

「ふっ、影使いのレイザンを倒したようだな。しかし彼は宮廷魔術師四天王の中でも最弱。この闇使いミラが貴様如き半端者にやら」

「うるせぇ」


 俺の顔を見るなり語り出した新たな宮廷魔術師に、ゆっくり歩いて近づく。目の前まで来ると、俺は彼の顔面を躊躇なく殴り飛ばした。


 〈風踏〉の発動位置を肘にした自作魔法により、俺の拳は大幅に加速されている。殴りつけられたミラは、頬の形が完全に変形していた。


「き、貴様! こんなことをしてタダで済むと……」

「思ってるから攻撃したんだよ。もしそれが間違いなら、ちゃんと反撃してこい」

「このっ!」


 いきり立つミラを、俺は容赦なくこき下ろす。普段であればここまで乱暴な真似はしないのだが、今回ばかりはそうもいかなかった。


 ……今の俺は、怒っていたのだ。王女様の現状を知りながら、疑いもせずに国王に加担していた……この脳筋宮廷魔術師どもが。


「闇より出でよ、我が」

「遅い」


 詠唱を始めるミラに、無詠唱で魔法の突風をぶち当てる。さっき殴った方とは別の頬が歪み、一周回って顔の形が整った。


「ふごぉ……」

「悪いな宮廷魔術師。お前らが俺の提案を受けなかったのが悪いが、今の攻撃は殆ど八つ当たりみたいなもんだ。お詫びに整形の料金は取らないでおいてやるよ」

「ふごぉ……」


 怒気のこもった俺の言葉に、頬がダルンダルンになったミラから気の抜けるような返事が返ってくる。なんか凄くイラッとしたが、言葉が喋れなくなったのは俺のせいなので流石に追撃はしないであげた。


 こんなことになったのは、今言った通り俺の提案を宮廷魔術師達が蹴ったからだ。

 国王が王女様に何をさせようとしているか聞いた俺は、すぐさま現状を変えようと宮廷魔術師達に二つの要求をした。


 一つは貴族の魔法教育を根本から変えること。もう一つは、王女様に暗殺用以外のまともな魔法を教えることだ。


 ロンの思い通りになったことは癪だが、そうも言っていられない。魔法を戦闘の道具としか考えていないクソのような環境に。そして、そんなところに一人の少女が放り込まれている状況に、我慢ならなかったのである。


 しかしプライドの高い宮廷魔術師達は、俺が打ちのめした影使いを除き総じてこれを拒否。仕方ないので、否定の書状が送られた50秒後にミラの部屋に突入し、こうして実力行使しているというわけだ。


「曲者め、他の貴族達に見つかればただじゃ済まんふご……」

「第一王子の許可はとってあるから大丈夫だよ。聞き分けのない奴らはぶちのめして良いってさ」

「そんなふご……」

「お前そのふごっていう語尾気に入ってんじゃねえよ。ていうか語尾にアレンジすんな」


 いい加減苛ついたので、特に意味もなくもう一発殴った。魔法使いらしくない攻撃でごめんね。


「あまりに魔法が成ってねぇし、何より魔法に対する認識が成ってねぇ。お前ら宮廷魔術師が魔法を信じてやらねぇで、誰が信じるっていうんだよ」

「し、知らねぇよふご! 魔法を信じるって何ふご!? 魔法狂信者ふごか!?」

「そんなどうしようもないお前らに、魔法の素晴しさを叩き込んでやる」


 ミラの言葉をガン無視して、俺は少し前から考えていたことを提案した。


「冒険者ギルドでクエスト受けて、初心からやり直しやがれ」


 お前らも魔法の狂信者にしてやるよ。そう思いながら、俺はニヤリと笑った。

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