第22話 殺伐とした王家

 宮廷魔術師を負かした俺は、すぐにロンのところへ向かった。あまりに脳筋の魔術師と、歪んだ教育の在り方。その理由を問いたださずにはいられなかったのだ。


 そうして彼の個室に立ち入ると、まずは俺を待っていたナナが声を上げた。


「ジレン君っ! 良かった、もう会えないかと……!」

「いや何言ってんだよナナ……。授業を見学するだけってちゃんと言ったじゃん」


 目をウルウルさせる彼女に、呆れながら突っ込む。どんだけ友達に飢えてんだ。まぁ現状、友達と言えるのは俺だけなのだから仕方ないのかもしれないが……。


 友達が、俺だけ? 何か忘れているような違和感に首を傾げるが、いまいち何も思い出せない。これも記憶を消された弊害なのだろうか。


「そんなに人恋しいなら、ロンと友達になればよかったんじゃないか?」

「無理、あの人怖い……」


 ナナが怯えているので何事かと思ってロンを見遣ると、彼はナナのことなど全く眼中に入れずに魔導書のページを入れ替えまくっていた。

 うわー、すげぇニヤニヤしてて楽しそー……。俺も周りからこんな風に見えてんのかな……。


 客であるナナを構いもしないその姿勢に引いていると、ロンはようやく俺に気づいた。


「おぉ、ようやく帰ってきたかジレン君。宮廷魔術師の教育はどうだった?」

「最悪だったな」

「そうだろう! 君ならそう言ってくれると思っていた! いやぁ、やはり私の目に狂いはなかった。弟を負かした魔法使いというから気になって観察していたが、ようやく同志に出会えたというところかな」


 ナナへの態度とは全く違い、満面の笑みを浮かべながらまくし立てられる。

 どんだけ魔法使い恋しかったんだよと思うが、まぁ悪い気はしない。確かに最近、脳筋でない魔法使いと会ったのは彼が初めてだ。


「宮廷の現状も分かってもらえたことだし、早速無能な貴族どもを追い出す作戦を練ろうじゃないか。ともすれば国家転覆でもいい!」

「いやいや待て待て、俺はそんな面倒そうなことをするつもりはないぞ? 宮廷魔術師は割が良いって聞いたから来ただけなんだし」

「そうかぁ……」


 暴走したようなロンの提案を断ると、彼は真っ暗な顔で肩を落とした。純真だなオイ。


「それより、何でこんなことになっているのか聞かせてくれないか? あの宮廷魔術師、冒険者の魔法使いに毛が生えた程度の力しかなかったぞ?」

「理由は多くあるが……。一番大きい原因は、恐らく私の父だ」

「国王が?」


 謎の言葉に首を傾げると、ロンは深く頷いた。


「彼は元勇者だからね。正統派の彼には、搦め手ばかり使う魔法使いは小物にしか見えないんだろう」

「まぁた脳筋のせいかよ。でもそれじゃあ、お前が勇者じゃないのは……」

「あぁ、私が魔法にばかり現を抜かしていたからだ」


 ロンは怒りと悲しみが同居したような表情を浮かべ、俺を見た。


「でも本当のところ、意識はしてないのだろうが彼は魔法を恐れているだけなんだと思う。支配欲の強い人だからね、宮廷魔術師が必要になっても御しやすい脳筋を加え、勇者の力もひ弱な弟に継がせたんだろう」

「成る程な。理解できない相手は怖い、ってことか」


 分からない話ではない。もし世界中の人が魔法使いを理解してくれていれば、魔導書オタクという言葉が悪口になるわけがないのだから。

 理解出来ない相手は恐怖されるか、馬鹿にされる。それはとても覚えのある話だった。


 もしアウロが魔法のことを理解していてくれれば、俺はあのパーティーを抜けなかったのだろうか……。


「でも待て。それなら王女様に魔法を覚えさせているのは何でだ? 勇者は魔法を覚えてる風でもなかったし、貴族の義務教育ってわけでもないのだろう?」

「そこにも理由はある。……しかしそれを聞けば、お前は二度と宮廷と無関係ではいられなくなるぞ?」


 真剣な眼差しで見つめられ、俺はゴクリと生唾を飲む。冒険者として自由気ままに生きる方が性に合っているのだが……。


「分かった、聞かせてくれ」


 王女様の希望とは無縁な表情を思い出すと、俺はいつの間にか返事をしていた。


「良かった。そう言ってくれるなら、今日から君は貴族社会を変える私の同志だ。記憶喪失の原因も分かっていないが……だからこそ、君は革命の起点となるだろう」


 不穏な前置きをしてから、彼は国王の計画を口に出した。


「父は妹を魔王と政略結婚させ……。果てには、魔王を暗殺させるつもりだ」


 それは、国家どころか人類単位の大問題であった。

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