第17話 宵闇盗賊団
「宮廷魔術師だって!? おいおい、俺を面倒ごとに巻き込むつもりじゃないだろうなぁ!? 面倒ごとは御免だぜ!」
「言ってることの割に涎ダバダバだよ君!?」
俺がロン第一王子様に突っかかると、リンが意味の分からない突っ込みをかましてきた。いやいや、涎なんか出てるはずが……うわ本当だ汚い。
口元に手をやって惨状を確認した俺は、少し落ち込みながらも冷静に考えてみた。
宮廷魔術師というのは王宮お抱えの魔術師だ。涎が出ても仕方ないほどの高給取りで、政治面や軍事面に魔術師の視点を入れるための職だが……。
「殆どお飾りみたいなもの、だと聞いたことがあるぞ?」
「やはり民衆にもそう認識されているか……」
俺が警戒しながら問いかけると、ロンは悲しそうに目を伏せた。
「そう……魔術師の価値が認められていないのは冒険者界隈だけじゃない。貴族の間でも同じなんだ。今の宮廷魔術師が役立たずなのだから、仕方ないと言えばそれまでだがね」
「役立たずなのかよ……。でも高給取りなんだろ?」
「もちろん。税金の1%ほどが彼らの懐に入っている」
彼らってことは、複数いるのに役立たず扱いされてるのか……。それで税金の1%貰えるってやべぇな。
「だから君には、貴族達に本物の魔法というものを見せて目を醒ましてやってほしいんだ。魔術師こそが優れた人種であると、本国全土に知らしめてほしいっ!」
ロンはこれまでの冷静さをなくし、金切り声で叫んだ。
「私がいくら魔法の力を説いても、勇者の家系だから実力があるのは当然だなどと言われるのでな……。アァァ……私に勇者の力を受け継がせなかったのはキサマラダロウニィィィッ!」
ひいいっ、闇深い! 王家闇深い!
正直面倒ごとの匂いしかしないのだが、異次元の給料が貰えるのは確かなようだ。
金さえあれば、俺は冒険者にはならなかっただろうしな……。買いたかった魔導書のリストが頭に浮かび、俺の迷いが首を横にも縦にも動かす。
「魔法攻撃受けてるっぽいからその首の動きやめてくれない!?」
「いや、すまん。ちょっと迷ってて……」
「迷っても普通の人はそんなことにならないよ……」
リンが呆れたような声で突っ込み、それから暗い表情を浮かべた。
「迷ってる……の?」
「あぁ、そりゃあ……。貰える金が桁違いだしな」
「冒険者稼業はどうするのさ。次は討伐系じゃない、楽しいクエスト受けようって約束したじゃん。一緒にパーティ作って、これからだってところだったじゃん!」
「んんー、そうだよな……。うん、やっぱ断ろう」
高給が惜しくないと言えば嘘になる。しかし段々と泣きそうになりながらリンが訴えてきたので、俺の迷いも完全にふっ切れた。
リンはいつも明るい子なんだろうと思っていたが、予想以上に俺達との冒険を楽しんでいたようだ。俺もリンと出会ってからは冒険者の生活を楽しんでいたし、お金以外の面では宮廷魔術師になる意味もない。
俺はロンに向き直り、彼の申し出を断った。
「悪いけど、やっぱり俺はこのままで良いよ」
「冒険者としての卑しい生活が名残惜しいのか?」
「卑しいってこたないだろ……。冒険者がいなけりゃ、魔物の数も減らないし」
「それは次元の低い理解だ……が、まぁ、それならそれでいい。冒険者稼業にわざわざケチをつけるつもりはないさ。しかし……」
ロンは帽子のつばに左目を隠していたが、帽子をずらしてその目を晒した。
彼の黒目の中には、幾重にも重ねられた魔法陣が覗いている。……完全な、臨戦態勢だった。
「もし君の判断がそこの小娘のせいだというなら……やめておけと言っておくよ」
そして彼の目は、ただ一人、リンだけを睨み付けていた。
「そいつは宵闇盗賊団の頭領……。弁明の余地なき国家大罪人だぞ」
「やっぱり、王族には顔バレしちゃってたか」
二人が言葉を交わした瞬間、ロンの視線の先で、地面が爆撃を受けたように穿たれた。地面に空いた無数の穴が、今の一瞬に放たれた火力の絶大さを物語っている。恐らく、〈爆裂〉と〈高速振動〉の合わせ技だ。
しかし、そこにいたはずのリンは彼の視線の先から姿を消していた。
「やはり速いっ! 不意討ちも効かな……」
虚を突かれたような顔で固まるロンだったが、彼の背後には、いつの間にか先程いなくなったリンが浮いていた。同時、右手に握られていた短剣で一閃――。
短剣によるものとは思えないほどの大傷がロンの背中に刻まれ、孔雀の羽のように血を撒き散らした。
「おい、リン……っ!」
「ごめんね」
彼女の凶行に驚いて呼び掛けると、それを制するように、謝罪の言葉が聞こえた。
「やっぱり私、普通の生活なんて望んじゃいけなかったんだね。君となら、って思ってたけど……」
これまで見たこともない、寂しそうな笑みを浮かべる。
「人には出来ることと、出来ないことがあるんだよ」
「そんな、待てって……!」
諦めたような彼女に言葉を掛けようとする……が。彼女の
「記憶奪取」
気付かぬ内に頭を彼女に掴まれていた俺は、彼女の手の冷たさを感じながら……意識を闇に溶かした。
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