第12話 やる気スイッチ入りました

 パーティーメンバーが三人になったことで、俺達はかなり受けられるクエストが増えた。


 四人集まらないと受けらないクエストはかなり多いものの、三人もいれば自由は効く。アウロのパーティーを抜けても何もデメリットなかったなと思いながら、俺は幸せな気分でギルドに入った。


「受けるお仕事はお決まりですか?」

「あぁ、このクエストをやるつもりだ」


 予め決めておいたクエストの用紙を壁からはがし、係員に渡す。場合によってはこの時点でトラブルが起こったりするのだが、今対応してくれた女性係員は一番まともなので何事もなく受理された。


 今回受けるクエストは「幸せなら手を叩こう」という、ファンシーな名前のクエストだ。しかし忘れてはならない。ギルドではかわいい名前のクエストほど、危険度が高いのだということを……。


 内容は【デビルハンド】十体の討伐で、死者も続出している高難度クエスト。手を叩こうの「叩く」は、殲滅するって意味の「叩く」ナンダネ。


「討伐クエスト続きでちょっと殺伐としてるから、次辺りはもっと違う感じのクエスト受けたいな」

「良いね! 私、次は犯罪者を捕縛する系のクエスト受けたいっ!」

「おやおや、盗賊が正義感にでも目覚めたのかい? ていうか討伐クエストより余程殺伐としてるんだが?」


 軽口を言いながら、俺達はギルドを出ようとする。今回のクエストも成功すればかなり金がたまるし、武器や魔導書の調達も夢じゃないな……とほくそ笑んでいると……。


「そこの君達、待ち給えっ!」


 後ろから、知らない男にいきなり声を掛けられた。なんだ一体?


 早くクエスト地点に行きたいのに水を差されて、不機嫌さを隠しもせず振り返る。そこに立っていたのは、黄金の高そうな鎧に身を包んだ戦士だった。


「君達、今デビルハンドを討伐すると言ったね? その職業構成では危険だ、僕が助けてあげるよ」


 言って、白い歯を見せながらこちらに笑いかけてくる。何だこいつ。いやマジで。


「パーティーメンバーのバランスを見るに、君達は素人冒険者だね? 上級者にもなると、職業のバランスまでよく考えなきゃいけないんだ。僕が細かく教えてあげるよ」

「あの、別に……いらないよ?」

「あぁお嬢さん! 君はまだ、世界の恐ろしさを知らない。そのいたいけな翼は、この世界を飛ぶには早すぎる……だから僕が君の翼になってあげるんだ!」

「うぅん?」


 ナナに断られた男が必死に説得を試みるが、彼女の心には響かない。そもそもナナの弓の腕はかなりのものだし、今回のクエストではサポートなど必要ないのである。


「まぁそういうわけだから。俺達はこれで失礼するわ」

「ちょちょちょっ! ちょっと待って! 僕は君を一番心配しているんだよ。君以外は二人とも女の子なのに、男が君みたいな魔法使い一人というのはあまりに心もとない。いや、もはや無責任だと言ってもいい!」


 なんかすげぇこと言い出したぞこいつ。悪気がなさそうな分、下手したら相手リーダーさんより質悪いな。


 魔法使いを馬鹿にされているのは慣れているが、こいつサラリと女の子が頼りないっぽい言い方してやがるし。誰が決めたんだよそんなん……。


 流石にカチンと来たので、無視するわけにもいかなくなる。俺はまずこのアホの名前を聞くことにした。


「おい、そこまで言うならお前は強いんだろうな? まずは名を名乗れよ」

「ふっ、よくぞ聞いてくれた! 僕は勇者! 王の命を受け、魔王を倒しにきた者さっ」


 俺の質問に対し、男は名前じゃなくて役職と使命を語ってきやがった。脳みそついてねぇのかこいつは。


 脳筋は嫌というほど見てきたが、脳みそのない奴は流石に初めてだ。こんな奴が勇者なわけないだろと言いそうになったところで、いきなりリンが叫んだ。


「あっ! 確かに見たことある! この生意気そうな顔、第二王子レミントンだっ!」

「その通り! 呼び捨てなのは気になるけど、僕こそが第二王子レミントンさ!」


 マジ!? こいつが勇者なの!? 


 俺は知らなかった上に信じたくもないことを聞かされて、思わず彼の顔を二度見してしまう。


 勇者というのは、魔王を倒すための力を受け継いだ者の俗称だ。しかし力の継承先は割と自由なので、勇者が人気のあまり国の王になり、王子に勇者の力を受け継がせているのが現状だ。世襲の勇者って、なんかイヤだね。


「まぁそういうことで、僕が一緒についていけば何の心配もいらないよ! そこの魔法使いよりも余程役に立つはずさ!」


 言って、勇者がリンとナナにウィンクする。あー、成る程。こいつリンとナナが目当てだったのか……。


 冒険者には確かに女性が少ないし、女の子を二人も連れている男を見たら気にはなるだろう。ましてやその男が魔法使いだったら、そいつよりいい男だと見せつけて女の子を惚れさせるのも簡単だと考えているのだろう。


 やっと彼の狙いが分かったが、ここまでしつこいとそれを指摘してもついてくるだろう。サポートがいた方が楽なのは確かだし、このまま連れていくか……。


「分かった。じゃあ勇者様、旅のサポートよろしく頼むよ。報酬は四等分でいいか?」

「ふむ……。僕は構わないが、それだと君が報酬を多くとりすぎてしまうことになって不公平じゃないかい?」

「はぁ? なんでだよ。お前まさか、四等分の意味すら……」


 俺が憐憫の目を向けてやると、勇者は首を振って、よりおかしな答えを返してきた。


「いやいや。使、君はもう少し取り分を遠慮すべきなんじゃないかと言っているんだ」

「は、はあああああああああ!?」


 勇者の言葉に、俺は呆気にとられすぎて思わず叫んでしまう。呆気にとられて叫ぶって、初めての経験だよ。


 しかもこいつ、挑発とかじゃなくて本気で言ってるっぽいしね。女の子に気を使える僕優しいとか思ってるよ絶対!


「女の子に気を使える僕優しい」


 言ったよ!


「まぁお嬢さん達の取り分を奪いすぎたら可哀想だからね。二人はそのままで、僕と魔法使い君だけ出来高制ということでどうだい?」

「おおぉぉぉ、そっちがその気なら俺も全力出してやっよぉ……。どっちが速く狩れるか勝負だ……」


 呼吸を荒くしながら、勇者の挑戦を受けてやる。俺はこれまでとは比べ物にならないほどの気合いを入れて、ギルドを飛び出した。


 しかし俺とは対称的に、勇者は余裕の表情でついてくる。


「そうカッカするなよ……まぁ、焦るのも仕方ないけどね。僕の力なら、【デビルハンド】の一体くらい倒せるはずさ。厳しい戦いにはなるだろうが、倒せない相手ではないからね」

「あぁ? 十体討伐だって言ってんだろうが!」

「え、十体?」

「あぁ、流石に今回は全力でいくぞ!」

「え? ふ、ふーん……。まぁ、分かっていたけどね」


 なんかいきなりキョドり始める勇者。俺の怒りにあてられて、ようやく本気を出したのか?


 面白い……勇者とどこまで張り合えるか、試してみようじゃないか!

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