第11話 歓迎会
「二日連続で大変なクエストだったし、今日は休もうか。ナナの歓迎会もしたほうがいいだろうしな」
「昨日は殆ど何もしてなかったけどね?」
【アース・ドラゴン】を討伐した翌日、俺はクエストを休むことにした。
突然現れた気性の荒いお手伝いさんに報酬の三割を渡すことになってしまったが、その分こちらに消耗はなかったので普段より稼げたくらいである。だから今日はそこまでお金の心配をせずに済んでいた。
「でも歓迎会ってのは良いね。ナナちゃん友達欲しそうにしてたし、ちょうど良い機会かも」
「もう少しで作戦会議にナナが来るだろうし、それまでに出来る限りの準備しとくか」
そう言いつつも、どうすれば女の子が喜んでくれるかは想像もつかない。思いつくには思いつくのだが、それで上手くいった試しがないのだ。
思い出すのは魔法学校初等部の初恋。吊り橋効果という言葉を知っていた俺は、気になる女の子を極限状態にするため爆撃をしかけたこともあった。
決して人の心が分からないなどということはないのだが、魔法使いの効率主義に染まりすぎな感じは少ししている。
「ちょっと時間かかっちゃうかもだけど、ナナちゃんのためにご馳走作っといてあげようか?」
「おおっ、その手があったか!!!」
リンが良い案を出したので俺が食いつくと、何でそんなに驚いてるのみたいな怪訝な表情を向けられた。成る程ね、歓迎会でご馳走するのは普通なのね。
「あとはちょっと人見知りなところあるみたいだし、あんまり騒ぎすぎるのも良くないかな? ちょうど良い具合に楽しめることがあればいいんだけど……」
「あ、それなら」
人をもてなすのは苦手だが、自分の得意なことでなら出来ることもあるだろう。俺は意気揚々と思いついたことを口に出した。
「魔法の実験をしよう! 折角お前が魔法の実験台になってくれたのに、まだ一回もしてなかったからな」
「嫌だよ!? 歓迎会だって言ってんじゃん!」
「そう怖がるなって。楽しい実験にするからさぁ」
「目が笑ってない! 今までの素行を見てたら、君に任せるのは怖すぎるよ!」
俺の善意の提案に、全力で首を振るリン。俺の印象どうなってんだよ。……自業自得か。
「あの、お邪魔……します」
そんな言い合いをしていると、丁度ナナが家を訪れてきた。
俺は早速、リンに止められる前に高速でナナへと近づく。しかも〈風踏〉まで使った大加速なので、流石のリンも俺を止め損ねた。
「ナナちゃん待ってたよぉ、お兄さんと一緒に楽しい魔法の実験しないかいぃ?」
「口調が完全に犯罪者じゃん! いくらなんでも我を失いすぎ!!!」
リンに窘められるが、魔法の実験をするためなら俺は何でもする男だ。口だけで止められると思うなよ?
そう思いながら意気揚々とナナの言葉を待っていたが……。
「うん。皆が楽しんでくれるなら、何してもいいよ。私のせいで盛り下がるのが一番嫌だから。友達が望むなら、王様ゲームでも裸踊りでも何でも……」
「いや待て待て待てぃ! そんな覚悟は決めなくて良いんだよ!? てか決めないで!?」
快すぎる答えが返ってきて、逆に慌てふためいてしまう。本当に俺が犯罪者っぽくなっちゃうだろぉ?
「普通に楽しく魔法の実験するだけだから! 新作の魔法が有るんだよ!」
「魔法の実験が楽しいって、よく分からないんだけど……」
リンの的外れな発言に、俺は嘆息した。
「魔法は戦いのためのものだって固定観念があるからそう思うんだよ。魔法ってのは、本来楽しいものなんだぜ?」
言いながら、俺は作っていた新作魔法のページを純白の魔導書にセットした。
「この魔法は、かけるだけで10分間「前向き」になる魔法だ。ちょっとネガティブなナナにはちょうど良いだろ?」
「うっ、そう言われるとそうだけど……。なんか聞くからにヤバそ……」
「よーしナナ! こっちゃこいこっちゃこい!」
リンの心配そうな声を遮って、俺はいつもとは全く違うテンションでナナを近くに寄せる。そして問答無用で魔法を使用した。
練習していた魔法なので、詠唱もなしに発動する。
「あーっ! 本当にやっちゃった!!!」
「まぁ心配すんなよ、【知覚の魔導書】に書かれてる魔法を八つくらい組み合わせただけの魔法だから」
「十分に危なそうなんだけど!?」
リンが突っ込んでくるものの、ナナ自身が許可したのだから強くも言えまい。俺はナナに今の調子を聞いた。
「どうだナナ、魔法の効き目は。自分にも試したことあるけど、結構いい感じだろ?」
「う、うん……。歓迎会なんてされるとおそれ多くて申し訳ない気持ちになるけど、魔法の実験台なら役に立てるから嬉しいっ!」
「あれっ!? それ本当に前向き思考!?」
一瞬あわてふためくが、ナナにとっては十分前向き思考なのだろう。顔は赤く火照り、普段よりは余程楽しそうだ。
これで前向きって、普段どんだけネガティブなんだよ……。まぁ、成功は成功だ。
「な? 歓迎会に魔法使うのも悪くないだろ?」
「う……うん。確かに、ナナちゃんは楽しそうにしてるね……」
酔っぱらいのように明るい顔をしたナナを見て、流石のリンも頷いた。
「え、えと……。わ、私もその魔法、受けてあげてもいいよ? そう言えば私、助けてもらったお礼してないし……」
「ほう? ようやく俺の魔法に興味をもったのか?」
「い、いやそういう訳じゃないけど……。魔法の実験台になってから、何もしてないなぁ……と」
慌てて弁解するリンだが、俺の
俺は彼女に魔法をかけてやりながらも、魔法を受けたがるリンを見ていたかったのでそれを言わなかった。
「ねぇねぇ、魔法ちょうだいよぉ」
魔法が効いてきたようで、いつもよりリンが積極的だ。
やべぇ、素直になるとかわいいじゃねぇか……なんて考えていると。
「でもまぁ、実験台にならなければいつまでも一緒にいられるからいっかぁ……」
と、可愛すぎることを言ってきた。おっと魔法効きすぎじゃねぇか!?
いつもつっけんどんなクセに、こんなこと考えてくれていたのか……と感動する。この魔法作って良かったなぁと、改めて思う程だ。何より副作用なくて良かったな。
しかしそんな事を考えている内に、俺はこの会の主役を忘れてしまっていた。
「歓迎会とか言って放置されてるけど、これで良かったんだよね……。集中がリンさんに逸れたってことは、私がヘマすることもなくなったわけだし。うん、良かった良かった」
「あぁぁぁ! ごめんんんん!!!」
前向きなことを言いながら、ナナは目から涙を流していた。可哀想すぎる状況を見て、俺は慌ててフォローに入るのだった。
それからは歓迎会楽しんでくれたようなので、歓迎会成功して良かったです……。
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