第7話 とうとう脳筋が絡んできた
俺達が受けたクエストは、「危ない方のモグラたたき」というものだった。
このクエストの討伐対象は土竜。モグラではなく、【ソイル・ドラゴン】の方の土竜だ。クエスト名を軽くすることで受諾者を増やそうという魂胆が見え見えだが、普通に危険なクエストである。
「スピードのある私は得意そうなクエストだけど……。君は本当にこのクエストで良かったの?」
「あぁ。他の選択肢に比べれば、一番魔法が役に立ちそうだ」
リンの疑問に、俺は若干の自信を覗かせながら答えた。
【ソイル・ドラゴン】は竜の中では小さい方で強くはないが、地中から飛び出しすような攻撃をするため後衛職は苦手としている。だが対応力がウリの俺には、その程度どうってことはないのである。
「そろそろクエスト地点だね。いつ敵が来ても良いように注意しなきゃ」
「あぁ。俺は街を出てから〈気配察知〉って魔法で周囲を確認してるから、心配はしなくていいぞ。たとえ……」
喋りながら、俺は自分の持っている魔導書で自分の後頭部を隠した。
「たとえ冒険者が襲ってきても、すぐに気付くよ」
言い終わった途端、後方からカキン!という金属音が鳴り響いた。それは飛んできた矢を、俺の
音を聞いたリンが辺りを見回し、彼女もようやく異常事態に気が付く。
「えぇ、矢!? どっから来たのこれ! てかどうして君は無傷なの!?」
「そりゃ矢は後ろからだろうし、俺が無傷なのは魔導書で守ったからだよ」
「普通、魔導書じゃ矢は防げないでしょ……」
リンが呆れたように呟くが、魔導書は魔法使いの武器なんだからこれくらい出来て当然だ。少なくとも俺の中では常識である。
特に俺の魔導書のブックカバーはミスリル製なので、武器屋に売ってる程度の盾よりかはよほど堅い。
「それよりも、気にすべきは誰が撃ってきたかだろうよ」
「そうだった!」
余程気が動転していたのか、今更ながらリンが後ろを振り返る。俺は〈気配察知〉で相手の陣容が分かっていたので、それよりもっと遅れて振り返った。
振り返って遠くに見えたのは、四つの人影。身に着けている装備などから推測するに、下位冒険者の四人パーティーであった。
「おいおい、攻撃されてからずっとこっちを見ないなんて、随分と余裕じゃねぇか。状況が分かってねぇのか?」
「分かってるわけねぇだろ、魔法使いと盗賊のパーティーだぜ? もし分かってたるならこんな所に来やしねぇよ」
「ちげぇねぇ、ウヒャヒャヒャ!」
調子づきながら近づいてきた冒険者たちは、こちらをバカにするような目で見ている。そこに同業者に対する敬意はなく、ただただ欲望と侮蔑を感じさせた。
冒険者の中には、どうせバレないからと他の冒険者を殺すことにためらいのない者たちもいる。金目の装備目当てだったりクエストの討伐対象を取り合うためだったりするが、どちらにしてもロクなものではない。
「ふん、俺の魔導書を奪いに来たのか。この美しい装丁に目を奪われたのは仕方ないが、お前らには誇りってもんがないのか?」
「あ? そんなチンケな本いらねぇよ。俺達はただ、そこの嬢ちゃんを味わいたいだけだ」
「はぁぁぁぁぁ!? チンケな本っつたかお前今おい!? お前の装備一式より絶対高価だぞこれぶっ殺す!」
「いくらなんでも怒りすぎ! 魔法使い感皆無になってるよ!?」
魔導書をバカにされて完全にキレた俺をリンが宥めてくるので、俺はなんとか冷静さを取り戻す。
それでもやはり、許せないものは許せなかった。物の価値が分からないこいつらに、魔導書の価値と質量の重さを思い知らせなきゃ気が済まねぇ。
俺が久しぶりに怒りで熱くなっていると、弓使いの少女が相手パーティーのリーダーと思しき男に喋りかけた。
「ね、ねぇ……。多分、この人強いよ。逃げた方が……」
「はぁ? こっちは四人もいるのに弱いも強いもあるかよ! しかもこいつは魔法使いだぜ?」
「そ、そうだけど……」
どうやら、俺に矢を防がれた女の子だけは俺がただ者じゃないと気が付いているらしい。彼女は逃げた方が良いと進言するが、他の三人の男は彼女の言葉に全く耳を貸さなかった。
女の子のビクビクした態度や男女比を見るに、恐らくこの子もパーティーメンバーが馬鹿で苦労している口だろう。戦う時も、この少女は痛めつけないことに決めた。
「そんなわけで、お前はここで死ぬ。俺達が嬢ちゃんを味わうのを見ながら、雑魚のくせにノコノコやってきたことを後悔して死んでいけや」
「それはこっちのセリフだゴラァ……。俺の魔導書をバカにしたこと、後悔させてやる」
「ちょっとは私のためにも怒って……」
こうして、クエストの前に冒険者と戦うことになってしまった。
脳筋に魔法の素晴らしさを叩き込む聖戦が、今、始まる……。
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