第6話 準備が一番大事です

 パーティーを結成した、翌日。

 俺はギルドの壁に貼られているクエスト用紙を一通り確認した後、宿に戻ってクエストの準備をしていた。


「火が苦手な魔物は少なそうだからぁ~♪ 火の魔法はいらぬ~♪」


 普段は面倒くさい作業だが、今日はやけに楽しくて歌まで口ずさんでしまう。


 これまでと違うことがあるとすれば、今日のクエストはリンと一緒に受けるということだけだ。

 思った以上にリンとの冒険を楽しみにしているのを自覚すると、俺は少し恥ずかしくなった。


「準備して来たよっ! 入って大丈夫?」

「ああもちろん。ここを作戦会議の場所に指定したのは俺だからな」


 ちょうど魔導書の調整が終わったタイミングで、俺の部屋にリンがやって来た。今日は作戦会議の場所に、ここを指定したのである。


 俺が許可を出すと、リンは緊張気味に部屋に入ってきた。


「なんか思ってたより質素というか、普通の部屋だね? 大釜の一つや二つあるもんだと思ってたけど……」

「お前の魔法使いのイメージ、やっぱ雑すぎない?」


 リンがあまりに適当なことを言うので、俺は呆れてしまう。自慢は趣味じゃないが、魔法使いの印象を正してもらうために部屋を紹介することにした。


「俺は結構、部屋の内装とか拘るほうだからな。庭もいっつも整備してるし」

「へぇ……。 って庭!? ここ宿だよね!?」

「屋内庭園だよ屋内庭園。ちゃんと管理すればギリいける」

「ギリ?」


 そうとう予想外だったのかリンが興味をそそられたような顔をするので、俺は「ほら、あれ」と言いながら屋内庭園を指さした。


「ん? 本しか置いてないじゃん?」

「あぁ、そりゃあ魔導書のための庭だからな。あそこで魔導書の養殖してんだよ」

「魔導書の養殖? ……うわっ、ホントだ! 魔導書が生き物みたいにサワサワ動いてる! キモッ!」


 俺のマメさや魔導書の神秘に感動してくれるもんだとばかり思ってたから、この反応は予想外だ。ちょっとショック。


「魔導書って養殖できるもんなの?」

「魔導書はただの教科書じゃなく、装備者に合わせて内容を調整する機能が備わってんだよ。それを利用して魔導書と魔導書を掛け合わせると、増えたりなんか新しい魔導書が生まれたりするんだ」

「なんか最後の説明雑じゃない!?」


 ちょっと魔導書関連の話は全体的にややこしいから、一口には言えないんだよ……。追々説明するからちょっと待ってね。


「俺は金欠で、魔導書もいくつかしか買えないからな。こうやって増やしていかないとレパートリーが増えないんだ」

「今は何冊持ってるの?」

「【火炎の魔導書】、【疾風の魔導書】、【狩猟の魔導書】、【知覚の魔導書】、だけだ。自作魔法を除けば、これの組み合わせでしか魔法を使えない」

「十分すぎると思うんだけど……」


 自作魔法の参考にもなるし、魔導書はまだまだ足りない。だからこれからのクエストでは、なるべく収入も意識していかねばならないのだ。


「取り敢えず、今日受けるクエストを決めよう。俺の出来ることは言ったから、お互いの強みが活かせるクエストが良いな」


 俺は上位の冒険者にとられなさそうなクエストの中で、いくつか絞った候補を上げる。リンも大体同じような考えだったようで受けるクエストはすぐに決まり、そのクエストをどう攻略するか有意義な作戦会議が出来た。


 そうそう、こういうことだよな作戦会議!!! 脳筋の不毛な作戦会議を知っている俺は、クエストを受ける前から感動で泣きそうになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る