第5話 生活費を下さいマジで
【フルイド・サイクロプス】を倒した後、俺達は流石にダンジョンを引き返した。幸い強敵に遭遇することもなくスルスルとダンジョンを出られた俺達は、街が見えるところまで帰ってきたのだが……。
「いいなー……。サイクロプスの眼球いーなー」
「さっきからそれしか言ってないじゃん……」
俺はあまりにも収穫がなかったため、リンが手に入れたサイクロプスの眼球を羨むことしか出来なかった。このままでは、今月の食費も危うい……。
「君、ちょっとお金にがめつすぎない? 盗賊の私が引くレベルで魔法とお金の話しかしてないじゃん……」
「そりゃ、魔法とお金は人生でいちばん大事だからな」
「人生観!!!」
呆れるリンに言葉を返すと、彼女は謎の突っ込みをかましてきた。人生観て。
「いやまぁ、それは言い過ぎにしても……。パーティー追放されたばかりだから本格的にお金がヤバんだよ」
「そういえばさっき、パーティーでサイクロプス倒したって言ってたね。追放って……何があったの?」
リンが気遣わしげに尋ねてくる。隠すことでもないので、俺は大した話じゃないと前置きしてから事情を説明した。
「俺のパーティーは脳筋だらけだったから、魔法使いはいらねって言われて追い出されたんだよ」
「本当に大した話じゃなかった!!!」
どんな重い話を覚悟していたのか、リンが驚きに目を見張る。確かに、我ながら下らない話だ。
だが俺の話に何か思うところがあったのか、リンはいきなり俯いてしまう。
「でも、人に必要とされないのは辛いよね……。私ももっと、人に誇れる特技があったなら……」
「リン?」
「あ、いや何でもない! こっちの話だから!」
予想外の反応に困惑していると、リンはすぐに調子を取り戻して笑顔を浮かべた。しかし、さっきまでと比べると明らかに無理をしたような表情だ。
彼女は盗賊……これまで色々と辛いことがあってもおかしくない。とはいえ、今日あったばかりの俺が深く立ち入りすぎるのも問題だろう。
余計な詮索はするべきではないと思い、俺は無視しようとしたが……。
「なぁ、よかったら俺と一緒に新しいパーティーを作らないか?」
「え?」
リンの取り繕ったような笑顔を見ている内に、俺は気づけば、口を開いていた。
言葉を聞いたリンはポカンとした表情で俺を見つめているが、もう今更止まれない。俺は唐突に誘ってしまった恥ずかしさを誤魔化すため、そのまましゃべり続けた。
「正当な評価を貰えない者同士で集まれば……きっと、他のパーティーには出来ないことが出来るだろ?」
「……良い。良いねそれっ! やろう、是非やろうっ!」
言い終わると、リンは鼻息を荒くしてビックリするほど食いついてきた。
断られるかとも思ったが、意外と乗り気で安心する。やっぱり彼女は、盗賊としての出番に飢えていたようだ。
「私をパーティーに誘ってくれた人なんて、君が初めてだよ。パーティーに入れてもらうときは、いつも無理矢理だったから……」
「俺も、パーティーを作ろうなんて誘ったのは初めてだ。でも一人よりは二人の方ができることも多いし、これから人を増やしていけば受けられる仕事も増えるよな」
「なぁんだ、ずっと二人だけじゃないのか……」
いきなり誘ってしまった言い訳のようにパーティーを組むメリットを語ると、何故かリンが不貞腐れてしまった。
他の人に手柄を取られたくないということだろうか? 相変わらずの自信家っぷりで、頼もしい限りだ。
「じゃ、これからはよろしくな」
「これ断っても、私が魔法の実験台にされるのは変わらないんでしょ?」
「もちろん」
「もぅ、仕方ないなぁ」
軽口を言い合ってから、俺達は握手を交わす。追放された魔法使いと敬遠されがちな盗賊のパーティーが、ここに誕生した。
手を繋いだリンの表情は晴れやかで、さっきまでの暗さは無くなっていた。この笑顔のためならサイクロプスの眼球を諦めてやらんでもないかなと、俺は思うのだった。
「いやまだ根に持ってたんかい!」
しまった、欲望が表情に出てたか……。
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