第3話 自己紹介って性格出るよね

「ねぇ、私そろそろ引き返したいんだけど……」

「もうちょっと待ってくれ! ここまで収穫がないと、流石に生活が困る!」


 女の子を助けた後、俺はそのままダンジョンを歩み進めていた。


 もちろん女の子は触手の魔物に襲われたばかりでヌメヌメとしており、早く帰りたそうにしている。しかし俺はパーティーを追放されていて生活が懸かっているため、そう簡単にダンジョンを離れるわけにはいかないのだ。


「そうだ、名前をまだ聞いてなかったな。まずは自己紹介頼む」

「あからさまに話を逸らしてきたね……」


 呆れたような顔を向けられるが、女の子も名乗り忘れていたことを気にしていたようだ。一度ため息をついてから、素直に名乗ってくれた。


「私はリン・ホック、盗賊だよ。盗みの技術なら誰にも負けないけど、誰もパーティーに入れてくれないんだ」

「そりゃあな?」


 盗賊を職業として堂々と名乗ってる奴とは、そりゃあ関わりたくないよな。


 職業がイメージ通りすぎたので、俺は反応に困ってしまう。すると、俺の表情を見たリンがいきなり叫び出した。


「ほらぁ! みんなそういう反応するんだ! 盗賊なのか冒険者なのかはっきりしろとか! ぼっちのクセに賊を名乗るなとか! 無茶言うなよぉ!」

「うわぁ、分かった分かった! 俺が悪かった!」


 何を思い出したのか、とうとう子供のように泣きじゃくるリン。自分の失言に気が付き、俺は慌てて宥めた。


「盗賊だってさ、罠を解除したりとか色々出来るんだよぉ。なのにさ、盗賊って聞いただけで、うわ盗賊じゃんみたいな。うわあれ盗賊じゃんみたいな。やめてよぉ!」

「いやもう、本当にすまん……」


 こいつはこいつで俺の魔導書を見た時に絶望してたし、お互い様な気はするけどな……。


「そうだよな。俺も支援特化の魔法使いだからって、脳筋に馬鹿にされてたし。職業だけで人を判断するのは良くないよな」

「いや。魔法使いは正直、弓使えばよくないって思うこと多々ある」

「おいてめぇ」

「いやいや、君は別だよ! さっきの魔法凄かったし!」


 言ってることの割に、リンは職業差別が激しかった。俺はジト目で見るが、まぁ彼女の言うことも分かる。とある理由のせいで、魔法使いの大半は弓使いに劣るのだ。


 その理由を説明しようとしたが、俺が口を開く前にリンが別の質問をぶつけてきた。


「でも君、支援特化の魔法使いだったの? さっき〈火球〉使ってたし、てっきり【火炎の魔導書】を極めてるんだと思ってた……」


 俺の目を見ながら、リンが興味深そうに答えを待つ。だが、それは非常に的外れな質問だった。


 魔法に興味を持ってくれること自体は嬉しかったが、さっき俺が彼女の地雷を踏みぬいたように、彼女も俺の地雷を踏みぬいたのである。


「勘違いしてもらっちゃ困る! 俺は【火炎の魔導書】も持ってるけど、他の魔法も使えるぞ」

「え? でも魔法使いって、基本的には一つしか魔導書を極められないんじゃなかったっけ。君は自作の魔法も使えるからってこと?」

「あぁ、それは確かにそうなんだが」


 確かに、一冊の魔導書に書かれた魔法しか極めていない人は多い。しかしそこには理由があるのだ。


 困惑するリンに、俺はしっかり説明してやることにした。

 

「魔導書をなら一生につき一冊が限度って人もいるけど……。俺は良いとこどりしてるから」

「い、良いとこどりぃ?」

「そう。魔導書を買っても、自分に必要なところだけ切り取って習熟するようにしてるんだ」


 言いながら、俺はダンジョンでも使った純白の魔導書を見せた。そこには数々の魔導書から切り取った重要なページだけが、何枚も挟まれている。


「冒険者になるような魔法使いは、魔導書の本当の使い方を分かってない奴が多いんだ。だから魔導書のページが着脱式なことにも気が付かないし、殆どのページが水増しなのに一生かけて一冊の魔導書を覚えたりしてんだよ」

「う、うわぁー。そう聞くとめっちゃ可哀想だね……」


 リンが渋い顔で呟いた。俺もそう思うけど、冒険者になるような魔法使いにいくら説明しても「ガリ勉乙」とか「この魔導書オタクが」としか言われないから、自業自得なんだよな……。


 ああいう一系統しか使えない魔法使いがいるせいで魔法使い全体が軽視されちゃうから、ほんとやめてほしい。


「それに一生かけて一冊しか極められないってのは、勉強嫌いな冒険者だけだからな? 身分の良い魔法使いとか俺みたいに冒険者でも勉強を怠らない奴なら、良いとこどりしなかったとしても余裕で十冊くらい極められる」

「す、すごい……!」


 リンがごくりと唾を飲むが、この程度で魔導書を分かった気になっては困る。魔導書にはまだまだ、色々な使い道があるのだ。


 俺は勢いづいて話を続けようとするが……辺りが若干暗くなったことに気が付き、やめた。


「ねぇ、あれ……」


 リンが震えた声を出しながら、俺の背後を指さす。振り向くとそこには、洞窟の天井に頭が届くほどの巨体があった。


 本来ならダンジョンの奥深くにいるはずの魔物だ。大声でおびき寄せるでもしない限り、こんな所にいるはずがないのだが……。


 どうやら俺達は、盛り上がりすぎたようだ。


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