皆でおでかけ(芝生公園)
「わーい!! みんなでおでかけだあ!!」
「お、おい! あんまはしゃぐなって!」
気持ちよく晴れた空の下、HONERがいの一番に飛び出した。その腕をLIARがわしっと鷲掴む。因みに今自分が少女の姿になっていることは、すっかり頭から抜け落ちてしまっている。
「どーしてー? 早く行こうよー!」
「あっ、危ないかもっ」
「そっ、そうだよ! おーちゃん!」
SchellingもLIAR同様に彼女の腕を掴む。
「な、何かあったら困るだろう?」
「そ、そうだそうだ。あんなに嫌な目にあったじゃないか!」
「なんでー?」
「何でって、ねえ?」
「ねえ!」
LIARとSchellingが珍しく意見を合わせて少女を抑えようと必死。はしゃぎまくった挙句、はぐれてまた誘拐みたいなことになってはたまらない。
ここは慎重に……自分達とひっそり行動して欲しい。
「えー! でもでも、早く行きたーい!」
「やっ、それは僕達もそうなんだけどねっ」
「そうそう、僕も同じこと考えてるんだけど――待て、今どっちが喋ってるんだ」
「リアルで混乱するセリフやめろ! ただでさえややこしい時に!」
きゃあきゃあ騒ぐ二人に困った様子の少女。
そこに静かに近付いたのはRaymond。
「早く行きましょうよ」
「あっ! Raymond! 君からも言ってやってくれないか!」
「そうだぞRaymond! お前からも言ってくれ!」
「……私はそういうの苦手なのですが」
「「良いから!!」」
「……」
「君は任務的にそういうのよく分かっているだろう? その危険な事情とか云々を」
「お前は元々お世話係だったんだってな! だから伝え方も心得てるだろ」
「ですが」
「誰が君の疑似感情とかを整えたと思っているんだ!」
「そうだぞ!!」
「んー」
不満げにちょびっと眉をひそめてから彼女に目線を合わせる。
「HONER、良いかい」
「れいれい、なあに」
暫しの沈黙。真剣な眼差しで見つめ合う。それにHONERも自然と眼が真剣なそれになった。
……。
……、……。
……、……、……。
瞬間。
ひょいとRaymondがHONERを肩車した。
「逃亡だー」
「きゃーあははー!! 行けれいれーい!!」
「「おいちょっと待て、この野郎めが!」」
「裏切者!」
「薄情者!」
「(自主規制音)」
「(とてもじゃないけどHONERの目の前では言えないような単語)」
抜けた感じの彼の声に珍しくSchellingの口から悪口雑言が飛び出た。
* * *
あの時たった一人で見上げた青空。肩車してるからちょっとは近くなってるかな。
ドキドキしながらその時を待つ。Raymondのふさふさの頭にしがみつきつつ、きょろきょろ見回してみた。
「もうすぐ?」
「もうちょっと」
「もう着く?」
「まだまだ」
「もう着いた?」
「まだまだまだ」
時折雫が水溜りに落ちる音が反響し、その度Raymondの頭を抱きしめた。
「大丈夫だよ」
「だいじょーぶ?」
「大丈夫なのです。ここを越えればもう自由の楽園なのです」
「そーなの?」
「そーなのです」
「なんでー?」
「もう、着くからです」
「ほんと?」
鼻息で彼の茶髪をそよそよなびかせながら、胸をもっと高鳴らせる。
――その時、突然光に包まれた。
「ほら、着いた」
「着いたーっ!? 着いたーっ!!」
そこに広がっていたのはあの時と同じ景色だけど。
あの時より広く、輝いて見えた。
「はひっ、はひーっ」
「流石はRaymond。足が速いねぇ」
「ひぇーっ、ひぇーっ」
一方、さっきまで口から呪いの言葉を吐き出していた二名が遅れて登場。木霊の方は既にかなりバテてる。
「LI……」
ぎろり。
「……じゃなくて木霊ちゃん」
「何?」
「もうばてたのかい? あはは、だらしがな」
「あんた方
「アーダダダダダ!! 腕抜けちゃう、腕抜けちゃう!」
二人のプロレスを遥か上からケタケタ笑うHONER。
その興味は直ぐに別の方向へと向けられた。
「あー! あそこ行きたーい!」
「よっしゃ」
「んあ! ちょ、ちょっと、そこ待ちなさいよ!」
「おー、やっぱりRaymondは速いねぇ」
「ちょ! 私達を置いていくなっての! ――Schelling、肩車!」
「無茶言わないでよ! いくら元々男の子だからとはいえ……女の子を肩車だなんて、そんなの恥ずか」
「良いからっ!」
ゴキッ。
「首ッ、首取れちゃう!!」
――、――。
まずは芝生の公園に着いた。自分達以外にも親子連れがわらわら遊んでいる。
「あー! おーちゃんあれやりたい! お兄ちゃんあれやろう!」
「お姉ちゃんだってぶゎ」
訂正した時には手がグイッと引っ張られ、向こうに連れて行かれる。その先にあったのはそり滑りのコーナー。優しそうなお姉さんが沢山の子ども達に無料で段ボールのそりを配っている。
「おーちゃんこれやる! くだしゃい!」
「ちょっと、おーちゃん……! す、すみません、突然横入りなんか」
「大丈夫。この子のそりを直してただけだから、気にしないで。あなたには新しいのをあげるね」
肩から垂れた栗毛の三つ編みをかき上げ、彼女はにこやかにそりを渡してくれた。
「ありがとぉー!」
「良い子ね、お名前は?」
「おーちゃん! お姉ちゃんは?」
「お姉ちゃんだって! まあ嬉しい。――沙恵。小畑沙恵よ」
「さえちゃん?」
「そう。さえちゃん」
「へー! さえちゃんかわいいねー!」
「そう? ありがとう。……はあ、私にもこんな可愛い妹が居ればなぁ。甘やかし放題だよね」
ほっぺをぷにぷにやりながら溜息。
「沙恵さんは妹とか居ないんですか?」
「ん? 君は」
「あ、神代木霊です」
「木霊ちゃんね。――でも、いきなりどうして?」
「あ、いや。何でか、その、貴女みたいな人を見たことがあるような気がして」
「へー! いつー?」
「ここ最近、ですかね」
「ふうん……ドッペルゲンガーとかかしら。って、やだー! そんなの会ったら死んじゃうじゃないのー!」
「えー! しんじゃうのー!?」
「やぁねぇ、迷信よ。ふふ」
「めいしん?」
「嘘の言い伝え」
そう冗談めかしながら笑う彼女の言葉を木霊はしっかり聞けなかった。
――どうして?
その四文字ばかりが頭の中をぐるぐる巡る。
貴女は嘘を吐いている。貴女には妹がいるじゃないか。
言いだそうと思って、でも言えなかった。
LIARの胸にだけ響く音。それは嘘を吐いた人からしか出ない独特な音、彼にしか分からない暗号。彼女のそれはとっても悲しい音だった。
それに彼女にそっくりな人をどこかで見たことがある――あれは本当の話だ。
それだけに益々自分の胸に切なさが溜まっていく。
「お兄ちゃんー、早く行こうよー!」
「どわわっ」
「行ってらっしゃーい!」
思考を遮るように、また突然腕が引っ張られた。そのまま皆がそりで滑る芝生の坂の上まで登っていく。
……自分達を見送る彼女の笑顔にはどんな思いが込められているのだろう。
そんな考えは、直後の絶叫マシンみたいなそり滑りによって吹き飛ばされてしまった。
* * *
「ぱぱー!」
「おー、お帰りー!」
木陰のベンチで何やら話し込んでいた二人の保護者の元へ飛び込むHONER。木霊はというと、先程よりも更に疲れていた。
本当に元気過ぎるのだ、この娘は。
「どうだった?」
「楽しかったー!」
「良かったじゃあないか!」
「えへへー」
「どこら辺が特に楽しかった?」
「えっとねー……」
SchellingとHONERがぎゅうぎゅう抱きしめ合ってる隣ではぐったりした木霊にRaymondが手で扇いでやっている。
「お疲れ様」
「真逆HONERが乗ったまんまのそり引っ張りつつあの坂上ることになるとは誰も思わんだろ?」
「上ったの?」
「上った」
「凄い」
言いながら頭をすりすり撫でられ、途端に赤面。
「やっ、やめろよ恥ずかしい!」
「……? 何で?」
「何でって……聞くなよ!」
「HONERは喜んでくれるのに」
「ぼ――じゃなくって私は違うの!」
「ふーん……」
「……何よ、その企む目は」
「ふふ」
「何よってば!」
薄く笑う彼の胸倉を掴み上げた丁度その時。
「おーい。そこの人達ー。ちょっとおやつ食べないか」
呼ばれて振り向くとSchellingがHONERを抱き上げながらお財布を覗き込んでいる。Raymondも博士を真似して木霊を抱き上げようとしたが物凄い勢いで拒まれた。あの目が企んでいたのはどうやらこういう事らしい。
手をわきわきさせながらニヤつく若者をぎろりと睨んでから向き直る。
「おやつ?」
「ほら、あそこに」
言いつつ指した先にまばらに人の集まるクレープ屋のワゴンが停まっていた。それを見てからHONERの顔を見るともうワゴンに釘付けである。よだれまで垂らしていて、思わず吹き出してしまった。
「ね。木霊ちゃん、買ってきてよ」
「えー、使いっぱしりぃ?」
「僕もRaymondも下手に動けないからさぁ。ね?」
手を合わせてひたすらお願いするSchelling。じゃあその変装は何だよ? と思ったが、敢えて口に出さないでおく。
「それで? 味はどうするの」
「チラシ貰ってきてよぉ」
「おい、そろそろメインシステムぶち抜くわよ?」
「ひぇ! だ、だからあんまり下手に動けないんだってば」
「……」
「ね、お願い! お金は全額負担するからさ!」
「……対価を要求する!」
「えええー! ……そんな急に言われても」
「じゃあ私の肩車――」
「それだけは絶対に嫌!」
「何故」
そんなこんなして。小遣いの値上げで満場一致。
ワゴンの傍でチラシを配っている人の元まで歩んでいった。
――、――。
「えーと。生クリームと、チョコバナナと……」
往復二回目。
チラシに赤丸を付けつつ、全員の注文を反芻する。
それで周りを見ていなかったのもあった。
「グワ!」
腕を思いきり引かれ、どこかに連れ込まれる。
「ア!」
助けを呼ぼうと口を開いた所で腕をぐるりと首に回され、側頭部に銃口が突き付けられた。
「余り叫ばないで、神代木霊。否、LIARって言った方が正しい?」
言われた途端、ハッと目を見開いた。
「渋沢大輝……!」
「あの時以来だね。動いたら脳天ぶち抜くよ」
(つづく)
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