人探しのRoylott (with Joseph)
「観念するんだな、もう逃げられないぜ」
明治街役場一角、犯罪予備防止委員会で二人の男はうなだれていた。
黒髪の目隠れマッシュヘアーの青年はさめざめと泣いており、茶髪のチンピラ風の青年は隣の彼とは対照的に周りを囲む委員会メンバーにガンを飛ばしている。
二人とも髪の所々に藍色のメッシュが入っているが、仲間意識だろうか。
「私達が何をしたって言うんだー……」
「あん? 何見てんだ!」
そんな二人を動物園の動物を見るみたいにじろじろ眺める犯罪予備防止委員会メンバー。口々に言いたい事を言い合う。
「よく捕まえましたね」
「海生と剛が防犯カメラの映像を解析してくれたおかげでな」
「……これくらい」
「照れて良いんですよ」
「それにしても、これが噂の『目を覆う程の黒く長い前髪を持った紳士風の青年』と『茶髪チンピラ』さんねー。意外とみみっちいつうか、なんつうか」
「いや、修平君。油断してはいけないよ。これでも何人もの女の子を誘拐しようとしてるんだからね」
「私達が何をしたって言うんだ!!」
「いや、しでかしてしかしてねぇだろ」
「ちょっと、ちょっと女の子抱き上げて顔を確認しただけじゃないですか!」
「紛れもなくそれだよ、それのこと言ってんだよ!!」
「出会い頭に追いかけられて、投げ飛ばされて、手錠かけられて、役場に連れて来られる人の身になってみてご覧なさい、切ないから!」
「お前達が悪いんだってば、頭固すぎ……」
「説明を求めるー!」
「この長い前髪の人、うるさいですね」
千恵がぽつりと呟いた時、さめざめと泣いていた目隠れマッシュヘアーの青年がハッと顔を上げた。
その瞬間大輝と海生が千恵の前に立ちはだかる。
「この子に手は出させない!!」
同じく! と言わんばかりの勢いで首を縦に振る海生。
「アニメの見過ぎか」
すぐに修平のツッコミが入った。
「その子は……?」
「まずは君が名乗りたまえ!」
大輝の言葉にそうだそうだと言わんばかりの勢いで首を縦に振る海生。
泣いていた青年は千恵に興味津々らしい。先程までの大泣きが嘘のような立ち居振る舞いになる。
「嗚呼、失礼。私の名前は
「言わなくて良いよ、ちーちゃん」
千恵の顔を覗きながら凄い顔でガクガクと頷く海生。目力が物凄い。
「え? 私は小畑千恵です」
「言わなくて良いんだってばぁ!」
圧に屈しないのが小畑千恵なのである。
「千恵さん。なるほど。因みにニックネームとかはありますか?」
「これこそ言わなくて良いからね、ちーちゃん! 分かった?」
再度千恵の顔を覗きながらガクガクと頷く海生。先程の数倍目力が凄くなっている。
「普段は委員長から『ちーちゃん』って呼ばれています。それ以外は……あ、最近『おーちゃん』って呼ばれるようになりました」
「おーちゃん? 興味深いですね」
益々興味津々になるRoylott。
「ちいぃぃいちゃんっっ!!」
崩れ落ちる大輝。
「口にガムテープでも貼っとけ」
真剣な顔でガムテープを取りに行く海生。冗談のつもりだった修平とお目付役(?)の剛が全力で止めにかかる。
「仲の良い組織ですね」
「どうも」
微笑を含ませながらそう言うRoylottに大輝は似合わない真剣な顔で返した。
「喧嘩を売る気では無いんです。そちらのお嬢さんともう少しお話させて頂けませんか? 私達の目的に彼女は助力してくれる可能性が――」
「断る。その為の組織では無いので」
「私は全然大丈夫ですよ?」
「駄目だ! 君はあの都市伝説について調べていれば良いんだから」
「LIARですか――」
「黙って!」
ぴしゃんと言われ千恵は思わず体を震わせた。こんなに真剣な大輝は初めてだった。思わず黙ってしまう。
「……ごめんちーちゃん、つい……。でも許して。――誰か、ちーちゃんを連れてどこか外に。この二人とは僕が話を付けるから、なるべく大人数で外へ」
「そ、それは困ります!」
Roylottが慌てて止めようと千恵の腕を掴もうとしたが、それを剛が遮って止めた。
「っく……!」
「すみません、委員長命令なので」
「いや、冗談抜きで本当に困るんです、助けて欲しいんです!!」
「カイ、千恵を連れて速く外へ。武さんも念の為ついていって下さい」
「だから待って……!! 女の子を……女の子を探してるんです!!」
その場の空気がぴたりと止まった。
「もう……ずっと帰ってない女の子が……」
またさめざめと泣き出した。
「何で速く警察に行かなかったんです?」
「ちょっと事情が込み入っていまして……警察に行く事が出来なかったんです」
「変態ロリコン野郎だからか?」
安定の修平。
「ぶっ飛ばされたいか?」
「……そういう時だけ出てくるのよせよな、茶髪チンピ――」
「あん?」
「Josephさん」
「それで? 込み入った事情というのは?」
大輝が茶番を無視して話を続ける。
「こんな事言っても信じてもらえるか分からないのですが……私達はXXXX年から来たのです」
微妙な間が空く。その場がどよめく。
「え、あ、ん? いつだって?」
「XXXX年です。今からざっと500年後ですかね」
「「500年、後!?」」
「何、ってことは未来人!?」
「ええ、まあ、そうなりますかね」
「そりゃ常識が無いわけだ」
「何か言ったか」
「いいえ、なんでも」
最早お約束である。楽しんでいるのかもしれない。
「ごほん。それで? 未来の人が何故ここに?」
「さっきも言いましたが女の子を探しているんです。家出したのかもしれません……」
「それは貴方を見限ったとかそういう事では無いんですか。だとしたら身から出たさびではないですかね」
厳しく突き詰める大輝。何故か彼らに対してとても辛辣である。
「いえいえ……私の家族とかそういうのでは無いのです。知り合いの博士の子どもなのですが……その時代のどこを探してもいないので、まさかこの時代に誤って来てしまったのではという事で来たんです。お父さんもお兄さんも凄く心配しています、是非彼女を探すのを協力して欲しいんです」
「ふうん。それじゃあ彼女が見つかるか、若しくは彼女がこの時代にいない事がハッキリしたら大人しく未来に帰ってくれるんでしょうね」
「勿論ですとも。いない所で探しても仕方ありませんから」
「なるほど。ならば僕がその依頼受注しましょうか」
「え……!」
一同が驚き、固まる。
「本当に良いんですか……!? ハンザイ……何とか委員会さん!」
「犯罪予備防止委員会。このまま放っといても迷惑行為重ねるだけだろうし、こちらで対処した方が早いと思ったからね。それに、その女の子が事件に巻き込まれるのを防ぐ意味ではこの犯罪予備防止委員会の活動方針に乗っ取っている訳だからね」
「偽装工作とかしませんよね……?」
「何言ってるんだい、徹君。する訳ないじゃないか」
「委員長の顔にうっすら影が差してるように見えるのは僕だけでしょうか」
「徹君だけだと思うよ」
「うーむ……」
不安そうである。
「大丈夫、大丈夫! 皆暇じゃないだろ? 都市伝説グループはLIARの追っかけやら他の都市伝説で忙しいし、裏サイトグループもなんだかんだで忙しいし、徹君も徹君で例の『ゴミ電気』があるだろ?」
「まだ生きてたのか、その話!!」
「あーあー、聞こえない聞こえない。修平君が迷惑がって叫んでる言葉なんて聞こえないー、聞こえない!」
「ばっちり聞こえてんじゃねえか!」
「運命を変えるかもしれないんだよ!? 元工学部生には美味しい話じゃないか!」
「またたぶらかしたのか」
「たぶらかしてなぞ!」
「たぶらかして『など』な」
「うるさいうるさい! 僕は提案しただけだい!」
「それをたぶらかすって言うんですー!」
「うおっほん!! お客さんはまだお見えですよ、ふーたーりーとーも!」
「「はい、存じております」」
本当にこの組織のストッパーが徹だけであるのが何とも嘆かわしい。
「ごほん、えーお見苦しい所をお見せしました。何せこやつめが噛み付いて参りまして」
「るせぇやい」
「幸い、この役場の委員長室には町中の防犯カメラの映像があります。そこへあなた方二人をご案内しましょう。少しいじくれば他の所も見られましょう」
「ありがたいです」
「ん? そんな部屋があるんですか?」
千恵が誰ともなしに呟く。
「あるよ。委員長がこっそり作った部屋」
海生が答えた。
「へえ、知りませんでした……」
「凄い場所。機械オタクには多分宝の山」
「さっき武さんが言ってた防犯カメラの解析はあの部屋で行ったんです。委員長に取り合ったら隠し部屋を紹介してもらったんですよ。古株の武さんも知らなかったなんてどんな工事をしたんでしょうか……」
「それこそ、天才的なっ工事っ」
伸びをしながら海生が言う。
「じゃないの?」
「うーん、難しいですね」
彼らがだべっている間に大輝はRoylott達を噂の委員長室へと促した。
「それではご案内しましょう」
「……ついてっちゃだめですかね」
「駄目に決まってるだろ、千恵はLIARの調査があるんだから」
「ですよねー、ははは」
「千恵さん、ちょっと」
笑う彼女にRoylottがすれ違いざまに話しかける。すぐに海生が彼らの間に割って入った。憎悪にも見て取れるその視線にRoylottは
「……私が何かしましたっけ?」
と不思議そうに尋ねた。
長い前髪に隠れてその表情を窺うことは出来なかったが。
「……」
鼻の頭にしわを更に寄せて答えとする海生。
「大丈夫です。彼女には髪の毛一本触れはしませんよ。二つ聞きたいことがあるのですよ」
「答える事なんか何も無い」
「全く、この組織の人間は初対面の人に対して警戒し過ぎです。そんなに人間が信用できなくなるお仕事なんですか?」
「いいから早く行け」
「答えるか答えないかを決めるのは彼女です」
「……」
何も言い返せなかった。
「千恵さん、答えるかどうかは貴女に任せます。答えたい質問にだけ答えてくれれば大丈夫ですよ。――一つ目の質問は貴女を『おーちゃん』と呼ぶのは誰か。そして二つ目はLIARについてはいつから知っていたのか、ですね」
二つ目の質問が強調されたのが千恵にとっては気になる所であったが、彼女はどちらにも答えた。
「一つ目の答えは近所の情報屋のれいれいさんです」
「れいれい?」
「あ、違う、小沢怜さんです」
「ふうん……それは知らない名前だな。あ、いやね、私達が探している女の子は周りからおーちゃんと呼ばれていたから少し気になっていたんだ。それで、二つ目は?」
「二つ目は……物心ついた時から彼の存在は知っていました」
「ふうん、なるほど。……どうして?」
「どうして? うーん、そう言われると分からないですね……どうしてでしょうか」
「だって彼の存在は余り知られていない方じゃないか。それなのに君は随分早い時期から知っていた。何か彼に因縁でもあるんじゃないかな?」
「え……どうなんでしょう?」
「それに、既に一度会っているにも関わらず貴女が無事なのにも気になる」
「それがそんなにおかしいのでしょうか……?」
「実はね、私のいた時代では彼はもう少し有名――」
「そこまでです」
千恵が彼の質問攻めに困り始めた辺りで大輝が割って入った。
「余り開けておきたくない部屋なので、出来ればお早めに」
「おっと、すみません。つい熱が入ってしまいました。すみませんね、千恵さん」
「あ、いえいえ……」
それだけ言い残すと二人は大輝の後に続いて廊下の奥に消えていった。
「……で、千恵、このままここにいても良いの?」
「あ、いけない! 色々待たせてるんだった――じゃなくて!! 海生さん、耳寄り情報です!」
「忙しい人だね。いくつ手に入ったの」
「一つ……」
「一つか。ま、想像通りだけど」
「中々ガードが堅いです!」
「そりゃ不利な情報だろうからね。……で? どんなの?」
「彼の肺……」
「は?」
「じゃなかった、特殊能力の全貌です」
「ほぉ。見せて」
「これです……」
* * *
「あの女、どうだ?」
「Joseph、いつも言っていますがみっともないですよ。千恵さんです」
「で、どうなんだ?」
「千恵さんだけでなく、この組織全体が面白いですね。見知った顔が幾つか見受けられました。それにこの組織全体で彼女を守っているようにも見える……。貴方も何者なんだか、委員長」
「……新手のごっこ遊びですか」
「貴方は何を知っているんですか? 全て……とでも言いそうな雰囲気ですね」
「全て? 何のでしょう。そんな事より着きましたよ。これから、何日かに分けて来て頂いて結構ですからゆっくり探して下さい。それと、先に言っておきますが彼女は何の関係もありませんよ」
「似てると言ったら?」
「他人のそら似でしょう。彼女はもう十代の後半です」
「成長する事もありましょう」
「時間旅行で老けるんですね、初耳です」
「……まあ。全てはいつしか解き明かされましょう。それまで足掻いてみるつもりです」
廊下の壁が静かに開いた。
(つづく)
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