都市伝説掲示板

 * * *

 ――と、ここで黒く長い前髪を持つ青年が一歩の話を遮った。

「一歩さん、ちょっと待ってください。色々質問がしたいのですが」

「なんだい? 前髪くん」

「……それは私の事ですか」

「そうだけど? で、何だい?」

 一歩は前髪くんの視線を気にすること無く話を続ける。

「革命とは何ですか?」

「さあ?」

「……LIARはあの少女という事で正しいのですか?」

「どうかな?」

「何故XXXX年と2XXX年とでLIARの噂が違うのですか」

「うーん」

 ここで少し沈黙。

「……答える気あります?」

「無いよー」

「……」

 前髪くんと茶髪チンピラ風の青年の視線が痛い。

「おい、テメェ! 一つでも良いから答えられねぇのか!」

 茶髪チンピラ風の青年が一歩の胸ぐらを勢いよく掴んだ。

 流石に身の危険を感じたのか、一歩が引きつった笑顔で言う。

「あ、じゃ、じゃあ、茶髪チンピラ……」

「あぁん?」

「――じゃなくて茶髪くんの期待に応えて、一つだけ教えてあげよう」

 茶髪くんの手を無理矢理外す一歩。

「どんなに昔起きた事件でも噂になってしまえばその命は短い。LIARの起こした事件もいつしか噂に成り果てた。そして彼の噂はその名前から詐欺師へと変化していったんだよ」

「ま、待ってください! それってLIARがもう事件を起こさなくなったって事ですか!?」

「いつからかね、頻発していた事件がパタリとやんだんだよ」

「どうして……!」

「さあ、それはどうだろうね」

「……!」

「殴るなよ? 茶髪くん。教えるのは一つだけと言ったはずだ。話を続けるよ」

 * * *


2XXX年 X月X日 深夜

 その女性は薄暗い部屋でスタンドライトを一つだけ点けて、パーソナルコンピュータをいじっていた。青白い画面に単調なゴシック体で書かれた「都市伝説掲示板」の文字と、人々が吐き散らかした文字の羅列が映し出されている。


▼近年起こっている詐欺の実態♯LIAR

 こんばんはー、としでんです。今夜はちょっと面白そうな人物見つけたんで紹介しまーす。

 今回紹介するのは「LIAR」という名の青年です。LIARは名前の通り嘘ばかり吐く人で、その能力を使って詐欺とかの犯罪も行っているみたいで、何度か警察にお世話になってるみたいです。それでここからが凄いんですけど、何らかの特殊能力を持っているみたいで嘘発見器で嘘が見つけられないんだそうです! 確かに嘘は吐いているはずなのに証拠が取れず、警察もお手上げ状態らしいです。

 何か地味に凄そうじゃないですか? 反応良かったら他の情報も出そうかなと思います。

2XXX X/X X:XX としでん


▼は?@としでん♯LIAR

 何それ、初耳なんだけど

2XXX X/X X:XX か~な


▼@か~な♯LIAR

 インチキじゃね?

2XXX X/X X:XX 名無し


▼マジらしい@か~な@名無し♯LIAR

 いや、それが本当らしいよ! 詐欺の被害額だけでも何兆円に届く勢いみたい。

2XXX X/X X:XX てけとと


▼@てけとと♯LIAR

 え、それどこ情報ですか?

2XXX X/X X:XX 名無し


▼@名無し♯LIAR

 『れいれいの都市伝説チャンネル』ってとこ。そのチャンネルの都市伝説は情報屋をやってる主が自分で集めたやつしか無いから、結構説得力あるよ。是非調べてみて。

2XXX X/X X:XX てけとと


▼Me too@てけとと♯LIAR

 あ、俺もそこで拾った(笑)皆さんも確認してみてー。URLはhttp://www.○○○○.com/

2XXX X/X X:XX としでん


▼見てきた(笑)♯LIAR

 マジだった(笑)え、嘘を吐いている人の後ろにいつの間にかいるって話が怖い……。

2XXX X/X X:XX か~な


▼@か~な@てけとと@としでん♯LIAR

 え、何それ面白そう。ここで詳しく教えて。

2XXX X/X X:XX ちーちゃん


▼LIARの詳細情報♯LIAR

 怪獣の顔が描いてある紫のロングパーカーを着た青年のような容姿をしていると言われている。十三年前に突如現れ、世間や都市伝説サイトを全面的に騒がせた。現在彼に関する一番有力な情報は日本中の詐欺の黒幕とされる説である。それ故か彼の本拠地を正確に知る者はおらず彼に出会うことは難しい。

 また、彼は特殊能力を有しているとされており、以下は現在確認されている特殊能力である。

 ・嘘発見器で嘘が見つからない

 ・言っていることの八割以上が嘘であると思われる

 ・嘘を吐いている人の背後によく現れる。これは瞬間移動であると考えて良いだろう。偶にテレビに映る事もあるらしいが、疑わしい

 ・他人の嘘を完璧に識別する

 以上、「本人」からでした(笑)横入りしてごめん。いつも見てくれてありがとう。

2XXX X/X X:XX れいれい


▼れいれいさん!? ♯LIAR

 そんなそんな! 全然気にしません! 逆にありがとうございます! これからも応援してます!

2XXX X/X X:XX てけとと


▼れいれいさんキター! ♯LIAR

 上に同じくです! れいれいさん、あざます!

2XXX X/X X:XX としでん


▼♯LIAR♯れいれいさん

 本人(笑)いきなりすぎ(笑)でも、確かにまとめづらそうな内容だったから助かりました、ありがとうございます。

2XXX X/X X:XX か~な


▼♯れいれいさん

 え、何、れいれいさんってそんなに凄い人なん?

2XXX X/X X:XX なーなな


 そろそろLIARの話題も薄れてきたようで、ハッシュタグからLIARの名前も遂に消えた。頃合いを見計らって女性はコメントを打ち込む。


▼@れいれい♯LIAR

 質問に答えて頂いてありがとうございました!

2XXX X/X X:XX ちーちゃん


▼@ちーちゃん

 いえいえ。何かあったらまた聞いて下さい。

 あと、他の人、そんなに褒めないで下さい。天狗になっちまいますよ。

2XXX X/X X:XX れいれい


 そこまで見て、女性はパーソナルコンピュータを閉じた。


 ――翌日。

 明治街役場の隅にあるそのスペースは今日も賑やかである。

 そのスペースの近くの柱には大きな木の札でそのスペースを使うある組織の名前が書いてあった。


 ――『犯罪予備防止委員会』。

 ネット社会になった現代の一部の犯罪を予備的、もしくは最小限に防止するために発足した組織である。

(つづく)

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