嘘を喰う化け物

 時はXXXX年。それは愛なんて既に枯れ果ててしまった、余りに単純で無機質すぎる社会の片隅でのこと。化け物は薄暗い路地裏の底で息を潜めていた。

 これまでに分かっているだけで被害者は十数人を優に越え、専門家の推定では実際はもっと多くいるとのこと。そのためか、今では被害が発覚したらメディアを巻き込んでの大騒ぎ。――ただ、人々は実は心の底ではこんなもの、ただのショーのようにしか感じていなかった。誰だって「次は自分かも」なんて考えなかったのだ。

 それは薄汚れた路地裏を急ぐある男においても例外では無かった……。


(やべえ、やべえよ!)

 そう思いながら男はチラリと左手がしっかりと握っているスーツケースを見た。この中には何十枚、いや何百枚もの紙切れが入っている。しかし、ただの紙切れではない。皆さんの予想通り「紙幣」である。

 彼は詐欺を働いた直後であった。

(馬鹿な野郎だ。こんなのにほいほい引っかかって。とは所詮こんなものか)

 彼は何の疑いも無く自分にこのスーツケースを差し出した被害者を思い返し、一人ほくそ笑んだ。

(僕らの仕事を奪った罰だ! あいつを見返してやったんだよ!)

 笑いが止まらなかった。抑えようと思っても、心臓の辺りからどくどくと「楽しさ」が溢れ出して仕方ない。喉の奥では湧き上がった楽しさを吐き出そうとする二酸化炭素が渋滞している。

(くふふ……さぁて、こいつを何に使ってやろうかな)

 そのせいだろうか。

 彼は背後から近づいてくる「脅威」に気付かなかった。


「もしもし。竹見勝太さん……ですか?」


 男――勝太は唐突に呼ばれ、思わず振り返った。

 彼を呼んだその人は何やら手に写真を持っている。彼の周りにはもう何人か、似たような格好をした体格の良い男達がいた。

「あぁ、はい、何ですか」

「すみません、『警察』です。……このGeorgeという名の男性に見覚えは?」

「……!」

 勝太の目が大きく見開いた。

 いつの間にか胸に溢れていた楽しさはすっかり息を潜め、その代わりに肌の内側が妙に寒くなっていた。気付けば汗もかいている。頭は真っ白だ。体の芯がぶるぶる震えていた。

 ――バレた。まずい、捕まる……!

 こんな思考ばかりが彼の不安をどんどんかき立てていく。

「どうなんです。見覚え、ありますよね。三日前、彼に電話をかけましたよね?」

「……」

「そしてそのスーツケースには七百万入っている」

「……」

「何を企んで何を言ったのか知りませんけど……思いませんでしたか、変だなって。革命とされた人々がこんなにも騙されやすいなど、あるはずないでしょうに……」

「う、ああ……」

 熱気を帯びていた脳が急に冷め、氷点下の如くに感じられた。一気に冷静になった頭が色々な後悔の念を想起し始める。

「署までご同行願えますか」

 テレビドラマで何度も聞いたその言葉。機械的に、自動的に突きつけられた真っ暗な未来。何も考えられなくなってきた。頭に酸素が行き届かない。

 ――もう駄目だ!!

 その瞬間、勝太の意識がはじけ飛んだ。

「うああ!!」

 警察を押しのけて、死にもの狂いで走り出した。

 幾つもの角を曲がり、幾つものゴミ箱を倒し、必死に警察を撒こうと試みた。しかしこういう時に限って警察は中々離れない。

「ちぃくそっ!」

「待て! 逃げるな!!」

 右に左に曲がりながら勝太はずんずん進んでいく。次第に自分の家がどこにあるのかも分からなくなっていった。ただひたすらに、ただがむしゃらに。彼は肺が潰れるのを覚悟でどんどん走って行った。

 彼自身ののために、彼は捕まるわけにはいかなかったのだ。

 少しずつ警察との距離が開いていく。

(よし……! このまま……!)

 向こう側に見慣れた景色がある。

 豪華絢爛の看板が所狭しと並ぶ、いわゆる繁華街である。そこはいつも人で溢れており、普通に過ごすには少し暑苦しすぎる空間だった。――しかし、今は訳が違う。いくら体力自慢の連中がそろう「警察」とはいえ、これだけの人数をかき分けていつも通りの速さで走ることは出来ないであろう。それは勝太自身においても同じ事ではあったが、そのまま走って逃げるのと比べればずっとましなように思えた。

(よし、最後の一踏ん張り……!)

 目が回る程の息苦しさの中、襟元を塗らす汗も拭わずに、勝太は懸命に走った。

(もうすぐ……もう少し……!)

 彼の思惑に気がついたのか、繁華街に入らせまいと、警察も速度を上げる。

(あと、あと少し……あと少し……!)

 人の熱を感じる。ガヤガヤとうるさく、耳に貼りつく喧騒。人の世が放つあの騒がしくも愛おしい独特の雰囲気が目の前にあった。

(ここで、勝太、ゴールイン!!)

 勝太は両の手を振り上げ、意気揚々と蒸し暑い人混みの中にその体を投げ入れ――

 ドシン!

「キャッ!」

「うわっ!」

 ――ようとしたが……。

 少女に思い切りぶつかり、盛大にコケてしまった。


「いたた……」

「いちち……あ、君、大丈夫?」

 勝太は先程ぶつかってしまった少女の元に駆け寄る。白いワンピースを着た栗色のロングヘアーの女の子だ。

「……」

 少女は無言で首を横に振った。少しばかり肩が震えている。

「泣いてるの?」

「……、……」

 少女は少し時間をおいて、また首を横に振った。しかし、彼女のももに雫がぽたりぽたりと落ちる。そして、その続きにある膝は痛々しくすりむけていた。

「どうして欲しいの?」

「……」

「えっと、絆創膏付ける?」

「……」

「おやつ食べたい? おもちゃが欲しい?」

「……」

「ねぇ」

「……」

「ねえってば。僕はどうすれば良いの?」

「……」

 少女はひたすら沈黙を貫き通す。勝太はほとほと困り果ててしまった。

(今はこんな事してる場合じゃ無いのに!)

 あんなに距離を離したのに、これでは先程の努力が水の泡である。

 勝太はちらちらと路地裏に続く通路を見やった。

「じゃ、じゃあお家まで送り届けてあげようか。ね、お家までおんぶしてあげるから」

「……」

 尚も沈黙。

「ねぇええ……」

「……ふっ」

 ――と、勝太が情けない声を出した瞬間、少女が笑った。

「あ、笑った」

「……」

 すぐに黙りこくってしまったが、先程とは違う雰囲気を感じた。お互いがお互いに親しみを感じた……と言えば正しいか。

「ああ、そっか。君は口なしお化けだったんだね? だからお菓子とかあっても食べれないか。残念残念」

「お菓子……!」

 少女が勝太の言葉に反応して顔を上げた。目が大きく可愛らしい顔をしている。

「今あるの?」

「今は無いけど、もし欲しかったら買ってあげるよ。ほら、その、転ばせて怪我までさせちゃったし」

「……うーん、しょうがないなぁ。じゃあ買わせてあげる!」

「な、なんか偉そうだけど、まあ良いか」

 このやり取りで二人の距離が一気に近づいた。先程までのしどろもどろが嘘のようだ。

「おーちゃんね、チョコパックンのね、上手な食べ方知ってるの! あのねあのね、まずこうやってあるでしょー、それでね、半分にこうやってお口で、はむむむむってするでしょー、それでね……」

 おーちゃんと名乗った少女が一生懸命お菓子の食べ方を勝太に教え始めた瞬間、騒がしい足音が聞こえてきた。どうやら勝太が思っていたのよりも早くに警察はこの繁華街にいたらしい。まさか詐欺を働いた青年が子どもと仲良く喋っていたとは夢にも思わなかったのだろう。

 これは丁度良い。

「ねー、お兄さん聞いてるー?」

「あ、えっと、おーちゃんの上手な食べ方お兄さん見たくなっちゃったな。……あの路地裏の向こうにお菓子屋さんあるからそこで食べて見せてよ」

「うーん、しょうがないなぁ。良いよ、見せてあげる! じゃあその時お兄さんにもう一回教えてあげるから、一緒に食べてね!」

「良いよ」

「わーい! お兄さん大好き!!」

「はいはい、くっつかないの。――それじゃあ行こうか」

「うん!」

 勝太は警察の目を気にしながらこそこそ路地裏の中へと入っていった。

 警察は勝太を追ってこなかった。


 どれ位歩いた頃だろうか。勝太はふと路地裏が中々終わらない事に気がついた。携帯のマップを見ながら歩いているのに、だ。

(おかしいな……。僕、そんなに走ってきたっけ)

「おーちゃん、疲れてない? おぶって行こうか?」

 勝太がそう言いながらおーちゃんを見ると、後ろを気にしながら歩いていることに気がついた。

「どうしたの?」

「お兄さん……あれ、何?」

 心なしか声が震えているように感じる。

「え?」

 勝太もおそるおそる後ろを見た。

 そこには紫のロングパーカーを着た少年の姿があった。

「いつの間に……」

 そう呟いた瞬間、勝太の脳裏にある噂が浮かび上がってきた。

 ――LIAR。汚い嘘を吐く人から嘘を、うなじから抜き去り、食べてしまう化け物がいるという。

「ま、まさかな」

 ――そいつは路地裏に潜み、標的が来るのを待っているらしい。

 とすると、路地裏が中々終わらないのって……

 勝太の体がぶるりと震えた。

「おーちゃん、行こう!」

 勝太達は走り出した。

 後ろの少年も走り出した。

「お兄さん、後ろの人付いてくる!」

「おーちゃん、お兄さんの背中に乗って!」

(早く、早く路地裏から出なければ……)

 勝太は死に物狂いで走り出した。

(人ならざる者になるのはごめんだ!)

 勝太はどんどん走った。おーちゃんの小さな体がぶるぶる震えているのがはっきり分かった。

「絶対、おーちゃんに、酷い目は、合わせない、から!」

 走りながら途絶え途絶えの言葉を投げた。

 おーちゃんは小さく、うんと言った。

 しかしいつまで走っても終わりは見えず、遂には彼の努力もむなしく行き止まりに来てしまった。

「ええ!? 嘘だろ!?」

 勝太は携帯のマップを開いた。そこにはあるはずのない通路が表示されている。

「くそっ、携帯まで狂ったか!」

 勝太は苛立たしげに携帯をポケットにしまった。

「これからどうするの?」

 おーちゃんが涙目になりながら勝太に尋ねる。

「大丈夫。ちゃんとお兄さんが守るから。このピンチちゃんと乗り越えて、一緒にチョコパックン食べような」

 そう言って勝太が心配させまいと、おーちゃんを抱きしめようとした――その時。

「え……?」


『嘘に嘘を塗り重ね、罪のタールを被るより、人を惑わせそれに興じる闇夜の道化となる前に――』


「まさか……」


『その躰に宿りし大罪、僕が喰らってあげましょう』


「げ……!」

 途端に呼吸が苦しくなる。

 うなじに奇妙な感覚と激しい痛みが洪水のように襲いかかり、頭がぐるぐる回りだした。

「カ……ハ……! ゲホッゲホゲホ!!」

 恐ろしい程の吐き気と目眩だ。

「ハアッ……ハアッ……!」

 そして間もなく鮮血がほとばしるようなグジャアッというような音が背後から聞こえ、生臭いような臭いが鼻をつき、すぐに楽になり……。


「おー……ちゃ……」


「イヤアアアッ!!」


「近藤さん、路地裏の方からです!」

「こなくそ、このくそ忙しいって時に!」

「またLIARじゃないですか……? だとしたら奴もそこにいるかも!」

「……その時はまた逃したことになるんだがな」

「あ……すみません」

「別に良い。俺は路地裏の方へ行く。お前らはここ探してろ。三十分経っても俺が帰ってこなかったら、探しに来い。良いな?」

「はっ! 了解しました!」

 近藤――勝太を追いかけていた警察の内の一人である彼はLIARに深い因縁があった。詐欺事件の容疑者を追いかけている最中に容疑者がことごとく彼の被害に遭う上に彼らは全員姿を消した。そして何日か経ってから生まれ変わったように正直者になって帰ってくる。その時には嘘を吐いた時の記憶は全く無く、責任追及が出来なくなっている。

 彼は手柄を横取りされるのが許せなかったのではなかった。人外の力を借りて責任を逃れようとする犯罪者のその姑息な手段が許せなかったのだ。

「くそ……胸糞悪い」

 近藤は勝太が被害に遭った場所に辿り着いた。

 そこで待っていたのは白いワンピースと顔を真っ赤な返り血で塗らし、肩を震わせ泣く少女と……。

「何じゃこりゃ……。まるで殺人事件じゃねえか……」

 うなじからとくとくと血を流し、時折体をびくりびくりと震わす容疑者――勝太の遺体があった。

「お嬢ちゃん、大丈夫かい」

 近藤はポケットからハンカチを取り出し、少女の顔の血を拭った。

「……うう、お兄さん……」

 体をぶるぶる震わせて怖がる少女は先程まで仲良くしていた勝太の無惨に変わり果てた姿を見ることが出来ない。

「大丈夫。見なくて良い」

 近藤は少女の背中に手を置いた。

 その瞬間少女は体を大きく震わせ、バッと近藤の方へ顔を向けた。

「おじさん……誰?」

「私は……近藤久司。警察だ」

「けーさつ?」

「そう」

「偉いの?」

「……そうだね」

『本当にそうか?』

 突然だった。

 勝太が近藤の背後に立っていた。先程彼がいたはずの場所には血の水溜まりしかない。

「……!」

「お兄さん!」

「近づくな!」

 近藤は勝太に距離を取りつつ向き直り、彼に駆け寄ろうとした少女を手で遮った。

『人間は嘘まみれだ。自分に都合の悪い事が起きたらすぐに嘘を吐いてごまかす。……あんたもそうなんだろ』

「……何を言う」

『あんたの心が泣いてるぜ』

 勝太がふらふら近寄ってくる。

「お、お兄さん……」

「下がっていて」

『ほら、この心が』

 勝太が血まみれの手で近藤の胸を優しく、妖しく撫でた。

『終わりの無い仕事だよな。自分の本当の心隠して先の見えない仕事に悪戦苦闘。変な都市伝説に生きがい奪われてかなりしんどいだろ』

 勝太の顔が近づいてくる。白濁した気味の悪い瞳が近藤の顔を見つめていた。

 近藤は負けじと彼をぎろりと睨み返した。

「何だ? 詐欺師の嘘は不味かったか? お口直しのつもりで近づいてきてるんだろ。姿まで変えて、そんなに俺の嘘が喰いたいか? LIAR。それとも何だ。ああいう系統の嘘は食べ飽きたか」

『うふふ。まあ、どちらも正解だね。そしてどちらも大きく外れてる』

「……噂に違わぬ気味の悪さだな」

『怖い?』

「いいや、怖くない」

『それも正解で、不正解だ。……本当にあんたの心は可哀想だな。やってられないはずだ、しんどいはずだ、当初の理想と大きく違う自分の立ち位置に困惑しているはずだ』

 近藤の脳裏に幼い頃見た柔和な笑顔の警官の姿が映った。今よりも効率性なんか重視されていなかったあの田舎で見た彼の笑顔。決して大きな功績を残した訳では無かったが、市民の日々の安全のために汗水垂らして必死に働いていた。彼の乗るガタガタの古い自転車があぜ道を走りながら鳴らす小気味良いリズムが懐かしい。

 ああいう警官になりたいと思ったものだ。

(いいや、惑わされるな……!)

 必死に自分を奮い立たせる。

『社会は本当に変わったな。無機質で機械的になった。大きな変革は大きな混乱ももたらした。あんたの知ってる昔と大きく変わったな』

 今では何にでも完璧が求められている。全部革命のせいだ。心が窮屈な人間が増えた。合理性が求められ、一秒の無駄も許されない。失敗の数はレッテルの数だ、短所の数だ、人生の階段のひびの数だ。

(いつから、こうなった……)

(いけない、惑わされるな、自分に打ち勝て! 悪魔の誘惑に負けるな!)

『社会の統制は正義だ。それを崩す奴は社会から外される。あんたの心は社会の合理性を崩したがってる』

 勝太は突然近藤の頭を血で乾いた右手で掴んだ。

『あんたの全てが嘘まみれだ。名声も存在も五感も心も全て。あんたの周りに一体幾つの真実がある? 一体幾つの正直がある? 今見ている景色は本物か? あんたへの声の幾つが本物だ? あんたの聞く音の幾つが本物だ?』

「……」

『もう一度聞こうか。お前は偉いか?』

「……」

『答えられない程の苦しみに囚われているなら、解放してやろうか』

「いや……駄目だ。俺には今、守るべき人がいる。ここにいる子どもを守らにゃならん。この子を無事に送り帰すまで人外になる訳にはいかない……」

 近藤は混乱する心を必死に抑えながらかすれるような声でそう言った。

 ずっと胸の内で一人、自分を奮い立たせていた。孤独な戦いだ。敵は今の自分を崩壊させようとする自分自身だ。しかしこの戦いに勝利すれば、意味の無いようなこの世界にわずかな確信を見いだせるような気がした。

『ほう、よく言った。それが今一番この社会で足りないものだよ。そうさ、皆自分ばっかりだ。――だがあんたのその理想は僕の理想であり、この世界を乱すものでもある。その理想は今は受け付けられない。……だから僕がいるんだ。そういう外れた考えを持つ者は必ず心のどこかで、精神の深淵の中で生きづらさを感じてる。それを隠すのが辛いから僕が解放してやっているんだよ』

「魅力的なお言葉ありがとう。だがな、いくらそれで幸せになれるのだとしてもお前に私の背後は絶対にとらせない。俺がお前に遭遇した者の中の最初の生存者になってやろう。俺はこの社会に正面から向き合って生き抜いてやるんだ」

『そうだね。今のあんたなら宣言通り、僕の被害に遭わずにすむだろう。充分強いから。だけどね、心は変えられないんだ。そういう反逆の意志だったりめげそうな思いがある限り僕は存在し続けるし、心は僕を求め続ける。それに――』


 次の瞬間、近藤の目が大きく見開いた。


『誰があんたの見ている世界が本物だと言った? 誰が


 うなじが力強く掴まれた。

『おじさん、おじさんの嘘、

 近藤はそう言う人物が背後で栗色の長い髪の毛を垂らしながら、不敵に笑っているのを横目で見た。


「近藤さん! 三十分以上経ちましたよ! どこですか、近藤さん!」

 先程近藤と話した警官が路地裏に駆け込んできた。――と、すぐに彼に出会うことが出来た。

「どこに行ってたんですか、近藤さん。心配したんですよ!」

「……いい」

「はい?」

「もう、どうだって良い。こんな社会、俺の求めてたものじゃない! 俺が何の役に立つって言うんだ!!」

 そう言って近藤はいきなり走り去っていった。

「あ、近藤さん、ちょっと!」

 警官はすぐに彼を追いかけていった。

 残されたその場所には血溜まりはおろか少女の姿さえ無かった。



 そしてしばらく経ったある日。

 とある青年がパソコンに向かって何やらカタカタと打ちこんでいた。

 青白いモニタのトップには大きくゴシック体で「都市伝説掲示板」と書いてある。

 彼は慣れた手つきで、画面に


▼近年起こっている詐欺の実態


と書き込んだ後、その後ろに


♯LIAR


と打ちこんだ。


(つづく)


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