『夫婦岩』

御堂はなび

事実と筆者の体験談

 これは、H県N市のとある山手にある高校生ならほぼ9割は登校時に見る事がある巨大な岩がある。

 この高校に行くにあたっては多くの生徒がバス通学を余儀なくされるのだが、二つの鉄道系列のバスで通学する事になる。そのどちらも同じ駅を持ち、どちらもそこを通る事になる。


 一体誰がそう呼び出したのかは定かではないが、その岩の名前を『夫婦岩』と呼ばれている。

 巨大な軽自動車程の岩が、道路を走っていると突然現れる。

 この『夫婦岩』であるが、よくある曰く付きのお話がある。もしかすると当時の新聞を調べれば何処かにその事件や事故が確認できるかもしれない。


 当初この『夫婦岩』は道路工事段階で取り除かれるハズだった。当然、初見で見たらなんでこんなところに岩を放置しているんだろうと誰しもが思うだろう。それには少し理由わけがある。よくあるホラーなお話で、岩をどかそうとした重機が動かなくなる。

 

 突然、従業員達の具合が悪くなったり、身内に不幸があったりと、偶然かもしれないが不気味な事が起こり始めたらしい。そして誰もが原因はあの『夫婦岩』をどかそうとしているからじゃないかと言い始めたのだ。


 仕事である以上、怖いので出来ませんとは言えなかったのだろう。何度か慣行するも、工事会社の社長さんが、あれをどかす事は出来ないとそう言って、一旦そのままになったらしい。そして月日を得て別の業者が取り除こうと依頼を受けたらしいが、それもまた不発に終わる。


 いよいよ『夫婦岩』は何かあるんじゃないかと言われはじめた半面、丁度、カーブから対向車がやってくるところにあるので、スピードを落とし、ここで事故が起きる事は皆無と言っていいんじゃないだろうか?

 この『夫婦岩』はこの地域の交通安全を守っているんじゃないかと良い物として考えられ始めていた。


 実は日本人は、意味の分からない物や恐ろしい物を祀る習性がある。このN市であるが、大変有名な神社がある。

 その神社が祀っている物もまた海からきた得体の知れない物という説がある。このようにそういった物であればしっかり有難がれば良い方向に生きてくれるだろうという信仰。


 それで終わればこのお話はハッピーエンドで終わるのだが、筆者もまたこのお話の祟りに近い何かを知っている。

 というか当事者である。

 筆者は学生時代バスケットボールに青春のかけがえのない時間を奪われた一人なのだが、この『夫婦岩』の噂を聞き、中学時代に実物を見に行った。当然高校生になれば嫌顔なしに毎日見る羽目になるのだが、初めて見たそれは至って普通の岩だった。

 触れてみてなんの変哲もないその岩、当時の悪友がその岩をナイフで削ってみた。


 お判りいただけるだろうか?

 筆者はオカルトという事は一切信じない人間である。呪いは脅迫による精神ストレス、ラップ音は建物の老朽化及び手抜き工事。妖怪は浮浪者や悪意を持った人間。憑依は精神病やその振り、霊能力者はカウンセラーか詐欺師。

 それは今でも当然変わらない。ちゃんとした報酬や食事寝床が用意されているのであれば事故物件であろうと、樹海の中であろうと、平然と生活する事ができる。


 そんな筆者とその友人の身に起きた事件であるが、筆者は触れた利き腕である右腕をしばらくして怪我する事になる。それは大変よくあるお話だろう。気にもとめず病院に通う。

 一年、二年、三年。筆者の腕は病院の医者曰く完治しているという。


 もうあれからどれだけの月日が経っただろうか? 筆者の腕はいまだに痛み出す事がある。大人になってから別の病院に行き、大きな施設での精密検査も受けてはみたが、その結果は問題なし、筆者は今尚謎の痛みを左の肘に飼っている。

 友人はというと、筆者が高校を卒業する前にこの世界からいなくなってしまった。お互い中学以降は疎遠になっていたので聞いた話であるが、どう考えても一人ではできない自殺だったとか……


 この『夫婦岩』不思議な事に大きな一つの岩が割れ、夫婦と名付けられている。 この近辺には首なしライダーが出る。UFOの目撃例が多いR山というこれまた有名な山があるのだが、ここで一つ関係があるかは分からないお話がある。


 車に乗っていると、止まれ! 止まれ! と男性の声が聞こえる。ラジオか、風の反響か? あるいは気のせいか? やはり止まれ! 止まれ! と男性の声。

 急ブレーキを踏んだ時、そこには崖、あるいは工事中で道がない等、色々なパターンがある。 

 しかし、必ず最後は女性の声で「死ねばよかったのに」と聞こえてくるというものだ。


 筆者はそれを聞いた時、『夫婦岩』というのはあの岩の事ではなく、あの岩の下に何かを閉じ込めている岩なんじゃないだろうかと思った。これ以上は筆者も細かく書く事ができない内容があるのだが、あの地域にはそう言った夫婦、あるいは気の触れた人がいたというお話を聞いた事がある。


 これを書いている時に、右肘がまた神経をこするような痛みがするのは偶然か?

 今もなお、あの『夫婦岩』はあたりまえのようにバスの通路に不自然に聳え立っている。

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『夫婦岩』 御堂はなび @minawa

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