第10話
あれから3日が過ぎた。
基地に連れ戻されたカナはあの日のことを何度も何度も思い出していた。
ナオと行った、夢の世界。
あの日のことを思い出すと胸が躍るようで、何時間でも思い出にひたっていられた。
生きていて良かったと感じられた。
そう思う中で、カナの周りではあれから不思議なことが起きていた。
なぜか興奮気味の女性隊員達から『カナちゃん話し聞かせて』や『どうだった? どうだった?』などの質問責めにされたり、男性隊員からはニヤニヤしながら横目で見られたりしていた。
なぜそんな事になったのか、もちろんカナには分からない。
分からないし戸惑いもするが、でもどうでもいいとも思えた。
そんな事を気に掛けている暇があるのなら、あの日のことを思い出していた方がよほど楽しい。
カナが再び記憶を辿ろうとしたまさにその瞬間。
基地内の状況は一変した。
けたたましく鳴り響くサイレン、緊急事態を叫ぶスピーカーの声、慌てふためく周囲の人間を一喝するように怒声があがった。
ーーーー総員戦闘配置。
幾度となく聞いた、
出撃命令。
気付けばカナの隣にはダークスーツの男が立っていて、カナをまっすぐに見つめながら、
「奴等もついに本気になったらしい。たぶん今回が最後、総力戦だ」
「…………」
カナが何も答えずにいると女性隊員の叫び声が響く、
「ノモト! 早く!」
ダークスーツの男は視線を少し動かしたが、何も答えない。
「カナ……」
名前を呼ばれたカナは男の方をちらりと見てから一旦視線を足元に落とし、ゆっくりと理解する。
自分の死ぬ順番が来た。
自分も仲間達のところへ逝くのだ。
理解したうえで、目を閉じて自分に問う。
死ぬのは怖い。だが、死んでも構わない。
じゃあ自分はいったい何の為に死ぬのか?
世界のため?
全人類のため?
それともーーーー
答えは自分でも驚くほど簡単に出た。
ーーーーナオを守りたい。
ナオを守るために死にたい。
ナオには生きていてほしい。
どうせ死ぬなら、それがいい。
カナは無言のまま、頷いた。
そんなカナの返答にノモトと呼ばれた男は両の握りこぶしを強く握りしめ、そして。
「頼む」
男の言葉にカナは小さくうなずき、踵を返した。
出撃命令に慌てふためく群衆の中を縫って歩くカナの背中を、男は最後まで黙って見送った。
カナが、再び空に舞う。
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