第11話
7月の空はどこまでも青く、白い雲がのんびりと空を漂っていて、世界に光をもたらす太陽までもが活き活きとその身を輝かせていた。
そんな7月の空にカナは舞う。
機体の翼を閃かせ弧を描きながら、超高速で空へ上昇していく。
大気の壁を切り裂くように速く、鋭く、空を切って突き進む。
右へ左へ旋回し、自分の思うまま、感じるままに自由に空を舞った。
まるで空という大舞台で踊るように。
カナは不思議に思う。
少し前の自分は飛ぶことが怖かった、嫌だった。
しかし、空を嫌っていたそんな自分はいつしか影を潜めて、今はといえば昔のように空を、風を楽しんでいた。
幼い頃に感じていた、どこまでも自由な空。
そんな不思議な感覚にとらわれていたカナの目の前に現れたのは、巨大なコーヒーカップ。
カナの脳裏にあの日の記憶が鮮明に蘇る。
高鳴る鼓動を抑えられずにカナは機体をわずかに右へと流し、その巨大なコーヒーカップの周りを右へ右へと旋回しながら螺旋状に登っていく。
流れる景色と時間の中でナオの笑い声が聞こえた。
そのとき突如、基地からカナの機体へと通信が入る。
「おいカナ! お前いったいどこ飛んでんだ⁈ 予定のルートへ戻れ! まったくなに考えーー」
さらに別の通信が割り込んできた、
「いいんだカナ。何も気にせずそのまま飛べ」
「あぁ⁈ ノモトてめぇ何勝手な事言ってんだ!」
「これは上からの命令だ『あんなに楽しそうに飛んでるあいつを見るのは本当に久々だ、固い事は抜きにして、あいつの好きに飛ばせてやれ』だとさ……」
「なっ……」
上からそんな命令がくだる訳がないと頭では分かってはいるものの、命令という言葉の圧力にオペレーターは押し黙ってしまった。
機体の中に響き渡る二人のやりとりをカナはまったくと言っていいほど聞いておらず、ただ、カナはあの日のナオの笑い声に耳を澄ませていた。
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