第5話

 翌日、カナはナオに言われた通り午前十時に昨日の公園へと訪れた。


 ナオの姿は見当たらない。


 ナオはいないようだが、昨日とは違って、少数ではあるが子供達が走り回っている。


 カナはナオとの約束通りブランコに座って待っていようとしたが、あいにくブランコは二つとも使用中で更にブランコの前には一人の子供が立っていた。


 自分もあの子の後ろに立って待っていようか、と考えたがやめておいた。


 なので、カナは仕方なくナオとの約束を破る形になるがブランコの側にあるベンチに座ってナオを待つ事にした。


 木陰のベンチに座って、ブランコで遊ぶ子供達を見ていた。


 立ったり、座ったりしながらブランコを揺らして遊んでいる。


 みんながみんな笑顔である。


 緊張も、焦りも、恐怖も、普段自分を支配しているそれらが、ここにはないのだなと思う。


 考えてみればそれもそうだ、ここはナオ達の暮らす世界なのだから。


 自分のいる世界とは別の世界だ。


 木陰のベンチはとても涼しくて、快適だった。


 そこでカナは驚いた。


 自分を縛り付ける空や風が大嫌いだったはずなのに風が心地よいと感じている。


 幼い頃、自由に空を飛び回っていた時のように。


 空が、風が、大好きだったあの頃のように。


 自分を優しく撫でるような風が心地よくて仕方がない。


 不思議な感覚だった。


 世界が変われば、風も変わるんだなと思った。


 あるいは、空も。


 そうしていると突然、側で声を掛けられた。


「ごめん! 待った⁈」


「ーーーー⁈」


 またしても突然現れたナオに思わずカナの肩が跳ねた。


 昨日といい、今日といいナオは風が吹くといつの間にか隣にいる。


 やはり、自分と同じ自然現象みたいな人間なのだろうかと、改めてカナは思う。


 でも、自分とナオは全く別の世界の人間。似ても似つかない正反対の存在だとも思う。


 そんなナオはカナとは正反対の活き活きとした笑顔で言う、


「ーーーーじゃあ、さっそく行こうか」


「…………」


 カナはナオの顔を一瞬見てから視線を足元に落として、小さく頷いた。



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