第6話

 海多遊園地は公園から徒歩で二十分ほどの距離にある。


 海が見えるその遊園地は、あくまで小さな子供向けに作られたもので、日曜日ともなると地元の小さな子供達でごった返す。


 アトラクションにも、小さな噴水広場にも、傍らの植え込みにいたるまで抜かりなく子供達が配置され、思い思いの遊びに夢中になっている。


 それら子供達のたくましい姿を一通り眺めてカナは唖然としていた。


 普段自分を取り囲むのは恐い顔をした大人達ばかりだが、ここはどうだ。小さな子供達ばかりで、みんな笑顔である。


 全てが逆で、全てが新鮮だ。



 ーーーー本当に夢の世界に来たんだ。



 とうの昔に忘れていた、なんだかムズムズする感覚が心の奥底でぼんやりとした形を形成し始めていることに、カナは少しだけ戸惑っていた。


「さあ! まずはこれに乗ろう!」


 ナオが指差した方向をカナは素早く確認した。その先にあったのは、とてつもなく巨大なカップだった。


 カナは思う。こんな巨大なカップ誰が使うんだろう、とても大きな人しか使えないと思うけど……。


 カナが不思議に思っていると少し前にいたナオに手招きされて、慌てて巨大なカップへと歩みよった。


 ナオに促されるまま、カップの中に座り辺りを見渡した。


「はじまるよ!」


 ナオの声と同時にブザー音が鳴り響きーーーー世界が回った。


 ナオが大声で笑い、景色が流れ、子供達が流れ、時間が流れた。


 楽しかった。


 回転するのは普段から慣れていたが、いつもの回転とは違いカップのこれは楽しい回転だった。


 楽しい回転に夢中になっていると、あっと言う間に回転は止まり子供達も景色もいつものそれに戻った。


 もう終わりかと、少しがっかりした様子のカナとは対照的にナオは『次、次!』と大はしゃぎである。


「これこれ! 早く早く!」


「…………」


 辺りを駆け回る小さな子供達と同様にナオは大興奮で次のアトラクションへ向けて小走りし、カナもそれに続いた。


 その時、珍しくカナの感情が表に出ようとしたが、表情筋がその想いに上手く応える事は出来なかった。


 笑顔というより、引きつった苦笑いになっていたかもしれない。


 そんな顔を他人に見られないように、カナは俯いたままナオの後を追う。

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