5 それがいけなかった


 泣き崩れてしまった私はそれから先の出来事を知っていた。


 私の目の前を歩く誠さんは次の瞬間、血相を変え何かを突き飛ばす挙動をとる。


 私は知っている、あれは私を突き飛ばしたからだ。


 あの時、誠さんは私を突然突き飛ばした。


 そして私は訳がわからないままこける。

 そこで手の平の皮を擦りむいて1週間くらい痛かった。


 でもそんなことはどうでもいい。

 あの時私が負った傷なんて、どうでもいい。




 




 その後私の見ている先で誠さんは私以上に吹っ飛んでしまう。




「まことさんッ!!」




 どうしてそうなったか私は知っていた。


 彼は私を突き飛ばし代わりにその場に飛び込んできた車に轢かれたからだ。


 車の運転手は高齢なおじいちゃん。


 あの後で裁判があって詳しく話を聞いたからわかる。


 耄碌して視力の衰えたその人が運転ミスで歩道に突っ込んできたことは実況見分で散々聞かされた。




 端的に言えば、誠さんとその車の主はそこで衝突して二人とも




 誠さんの体はしばらく車に引きずられ、……になった。


 沢山の血が流れた。


 誠さんを引きずった車は民家に衝突し民家諸共炎上した。


 夜闇の中の眩い炎の傍で誠さんだったものの輪郭だけが私の視界にあった。


 引きずられた際に誠さんの手荷物も飛散し、彼の商売道具である調理器具は私の足元にあった。



 私はあの時真っ先に誠さんだったものに近づいた。






 それがいけなかった。






 誠さんはその時、だった。


 私以外がそれを見ても誠さんだとは思わない程度に、だった。


















































 あの日から私は彼の姿が頭に残り、食事が出来なくなった。


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