6 お味は如何ですか?






「……ん」




「……」




「……はるさん」




「……」




「……さん」




「……はい」




 気が付くと私はまた「デットマンズ・キッチン」にいた。




「お味は如何ですか?」




「……とても、……美味しいです」


 私は一口一口飲み込みながら答えた。


 口に運ぶパスタは段々としょっぱくなっていった。




「……それはよかった」




 静かに呟く黒沼さんを見上げると真っ白な顔は次第にひび割れ、崩れ、先程見てきた誠さんの姿に変わっていく。




「予約は僕がしておいたんだ、君を呼ぶためにね」




 誠さんは笑顔でそういった。




「……どう、して」






「……どうして最初から言ってくれなかったの?」






「それがこのお店のルールだったからだよ。 死者が生者に会うために、料理で気付いてもらうことがこの店のルールなんだ」




 彼の言い訳はどうでもよかった。


 私は椅子から立ち上がり彼の傍に向かう。




「……私、苦しかった」


「……ごめん」


「……突然独りになって、苦しかった」


「……ごめん」


「……あなたのことも忘れて生きようとした」


「……うん」


「……けどどうしても、食べ物をみるたびに、私はあなたを思い出してしまう」


「……うん」


「……あなたの姿を思い出して、……私はなにも口につけれなかった」


「……ごめん」




「……」




「心晴さん」




「……なんですか」




「それでも僕は君に生きてて欲しいんだ」




 私はそっと倒れ込み彼の胸に額をあてる。




「……誠さん、らしいですね」




 その後しばらく私は泣き崩れた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る