別冊ハナとユメ 7
昔のこととはいえ、ユメが女の子と一緒に観覧車に乗ったと言うのは、少なからずショックだった。しかもその子が、実はユメの事が好きときたものだ。
そういえばいつだったかの夏休み、クラスの子に告白されたって話をしてくれたことがあったっけ。あの時は休み中にその子の熱が冷めるよう祈ったけど、どうやら願いは通じてなかったようだ。
「そ、それで。その観覧車に乗った時、その子とはどうなったの?」
まさか、キスなんてしてないよね?いくら観覧車が定番スポットといっても、当時はまだ小学生だし。ユメにもその気はなかったみたいだし。
「どうって、さっき言った通り怖がって、気分が悪くなってたから、皆で介抱してたけど」
「み、皆で?」
「そうだよ。班の皆で」
なんだ、二人きりって訳じゃ無かったんだ。そうだよね、グループ行動が基本だものね。
「でももしそうだとしたら、悪いことしたかな。わかってたら俺も乗らなかったのに」
「えっ?それはダメ!」
もしもの話なのに、つい大きな声をあげてしまった。
一方ユメはなぜ慌てているのかわからない様子で、キョトンとしている。
「ダメって、どうして?可哀想じゃない」
「それはそうだけど……そうなったらユメとその子が乗らずに、下で待ってるってことじゃないの。二人きりで」
ユメを狙っている子と二人きりになんてさせたくない。自分勝手で、みっともないヤキモチだということはわかっているけど。
「ごめん。過ぎたことなのに、好き勝手言っちゃって。幻滅した?」
「いや、俺の方こそごめん。気を悪くするってわかってたのに」
そうは言うけど、本当は言いたくないのに、無理に聞き出したのは私だ。ユメが謝る必要なんて、これっぽっちも無い。
ただそれはそれとして、ちょっと気になる事はある。
「ねえ、ユメはその子のこと……本当に好きじゃなかったの?」
「えっ?」
一瞬驚いて、だけどすぐにムッとした表情になって、不機嫌そうな声を出す。
「さっきも言ったでしょ。俺が好きなのは、今も昔もハナだって」
「それはそうだけど……その子が良い子で、本当に好きだったのなら、何とも思ってないってことは無かったよね。ユメはいい加減な気持ちで返事をしたり、蔑ろになんてしないでしょ」
「それは……」
ほら言葉に詰まった。ユメは相手が真っ直ぐぶつかってきたのなら、ちゃんと考えて返事をする奴なのだ。
「別に怒ってるわけじゃ無いんだよ、ただちょっと気になって。あの時の私、恋愛になんて興味が無いとか言ってたけど、そのせいでユメは動くことが出来なかったんだよね。その時ユメが本当はどんな気持ちでいたのか、ちゃんと知っておきたいの」
当時の私は本当に意地っ張りで。ユメに迷惑をかけていて。だからこそ同じような間違いを繰り返さないよう、知らなければならないのだ。
ユメはやはり躊躇いがちだったけど、やがて小さな声で答える。
「そう、だね。好きだって告白された時は、正直嬉しかった」
「はうっ!」
思わず胸を抑える。ユメが女の子から告白されてたことを嬉しく思っていた事は、思った以上にダメージが大きかった。
「大丈夫?ごめん、やっぱりこんなこと言うべきじゃ……」
「いいの。好きだって言われて、嬉しくないなんてことは無いよ。そ、それでユメもその子のこと、ちょっとは好きだったりしたの?」
本当はこんな事聞きたくない。だけど、ちゃんと受け止めておきたい。祈るような気持ちで、答えを待つ。
「うん……ハナの言う通りかも。やっぱり少し、好きだったんだと思う。香里ちゃんのこと」
「うあっ!」
再度胸に、刺すような痛みを覚える。と言うか告白してきた子って、香里ちゃんだったんだね。私も知っているけど、いい子だったなあ。あの子から好きだって言われたのならそりゃあ、好きになっちゃう気持ちも分かるよ。
だけどショックを受ける私を見て、ユメは慌てたように言ってくる。
「でも、勘違いしないでね。確かに嬉しかったし、好きだと言う気持ちもあったと思う。だけどそれでも俺が一番好きなのは、やっぱりハナなんだよ!」
……うん、それはちゃんと分ってる。ユメが一番想ってくれているのは、私なんだって事は。
自惚れてるとか、自意識過剰とか思われるかもしれないけど、私の事を好きだというユメの言葉を、疑うつもりなど断じて無いのだ。
「ありがとうユメ。だけどさあ、どうしてそれで私を選んでくれたの?自分で言うのも変だけど、私って特別可愛いわけでもないし、面倒くさいって自覚もあるよ」
具体的に言うと、いつまで経っても恋愛に興味がありませんってスタンスをとっていた事とか、こんな風に追及する所なんかは、凄く面倒だって思う。更に言うと自覚しているからと言って、治せるわけでは無いというのだから質が悪い。いったいユメは、そんな私のどこを好きになったというのだろう?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます