別冊ハナとユメ 4
数年ぶりに来た遊園地は、子供の頃と違ってちゃんと楽しめるか心配だったけど、全然つまらないなんてことはなくて。私達は次々とアトラクションを回っていった。
中には待ち時間の長いアトラクションもあったけど、待っている間ユメと話をしていると、不思議と苦にはならなくて。昔待ちくたびれて疲れたとダダを捏ねていたのが嘘のようだ。
ジェットコースターの列に並んでいる時、ふとユメが思い出したように言ってきた。
「そう言えば昔、ジェットコースターに乗ろうとしても、身長制限で乗れなかったことがあったっけ。たしか、小学校低学年の頃」
「ああ、そう言えばそんなこともあったような……」
靄がかかったような曖昧な記憶だけど、何となく思い出してきた。たしかその前の日、絶対乗りたいって言ってはしゃいでたと言うのは覚えてる。でもそうか、あの時は乗れなかったのか。
「ハナは身長、ギリギリで足りてて、乗ることができたんだけどね」
「あれ、そうだったっけ?それじゃあ、ユメだけが乗らずにお留守番だったってこと?」
だとしたら可哀想。私が楽しくはしゃいでいるのを、見ていることしかできなかったと言うことか。しかし……
「ううん、違うよ。覚えてないみたいだけどあの時ハナ、俺が乗れないなら自分もいいやって言って、乗るのを止めたんだよ」
「あれ、そうだったっけ?」
「そうだよ。あんなに乗りたがっていたのにね。でもいくら俺が気にせず乗るように言っても、頑なに乗ろうとしないんだもの。けどあの時は、俺に付き合ってくれて嬉しかったよ」
ニッコリと、まるで太陽のような笑顔を見せてくる。昔のことなのに、思い出しただけでこんなにも喜んでくれるだなんて。当時の私、よくやった!
「あれ、でも私、ジェットコースターに乗った記憶があるんだけど?」
「それはたぶん、高学年になって来た時の記憶だよ。その頃には俺も乗れるようになってたから、二人とも乗ったんだ」
「ああ、そう言えばそうだったっけ」
ユメは本当に、色んな事を覚えてる。楽しかった思いでも、ふとした時の喜びも全部。そんな風に思っていると、ユメはふと何かを思い出したような表情になる。
「そう言えばさ、念願だったジェットコースターに乗った後、どうなったか覚えてる?」
「えっ?ええと、何かあったっけ?」
覚えてないなあ。もしかして、凄く怖がっちゃったとか?いや、でもそれなら、苦手意識くらいはもってておかしくないしなあ。
「うーん、分かんないや」
「やっぱり忘れちゃってるんだね。実はあの時……」
ユメは言いかけたけど、ちょうどその時私達の順番が回ってきて、係員が誘導する。
「遅かったか。まあ今なら大丈夫か」
何やら意味深な呟きをしている。気になった私はジェットコースターの座席に座り、安全バーを着けた後、隣に座るユメに尋ねてみた。
「ねえ。さっきの話だけど、いったい何があったの?」
「あれね。もしかしたら今言うべきじゃないのかもしれないけど……」
「そんなこと言われたら余計気になるよ」
口ぶりからして良い話題では無いような気がするけど、それならそれでちゃんと知っておきたい。
「じゃあ言うけど。ハナ、絶叫マシン事態は苦手じゃなかったみたいだけど、タイミングが悪かったみたいで。乗ったのがちょうど、お昼をとったすぐ後だったんだよ」
「へ?それって……」
「食べたすぐ後に乗ったものだから、胃がびっくりしたんだろうね。降りてから少しして、気持ち悪くなっちゃったんだよ。それで……」
「わーっ、それ以上言わないで!」
完全に思い出した。あの時、張り切ってお昼をたくさん食べてたのがいけなかったのか、降りた後で猛烈な吐き気に見舞われたんだっけ。それで……
「何でそんな恥ずかしいこと覚えてるのよ!」
「仕方ないだろ、覚えちゃってるものは」
「だからって……」
そう言った時、発車を知らせるベルが鳴り、体に振動が伝わってきた。ジェットコースターが動き始めたのだ。
「大丈夫だよ。今は食事前だから、きっと前みたいにはならないって」
「そういう問題じゃなくて……わあああーっ!」
私の言葉は、急降下によってかき消された。
猛スピードで走る感じや、独特の浮遊感は嫌いじゃないけど、あんな話を聞かされた後では素直に楽しむことができない。ユメのやつ、直前に何て事を言ってくれたんだ。
地上に降りた後、果たして私の胃は大丈夫なのだろうか?風を切るスリルよりもその事ばかりが気になって。結局乗っている間中、楽しむことができない私だった。
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